第11話

「もしも私に会いに来てくれるなら、いつでも来てください。あなた達がいつも通ってくる岩戸は穢れの元へ繋がっているわけではなく、実際には『行きたいと願った所へ繋がって』います。だから、あなたが私に会いたいと願ってくれさえすれば、私の元へいつでも来ることができるんですよ。私がこちらに来るのは…色々と問題がありますから、ね。ヒミが来てくれるなら、私は嬉しいですから。」

 なぜ自分達でさえ知り得ないことを知っているのか、そんな小さな疑問はすぐに霧散した。目の前の人にいつでもまた会えることの方が今のヒミには大きかった。何より自分に会えることが嬉しいと言ったのだ。先刻可愛らしいと言われただけでも体温が沸騰しそうだったというのに、今度は嬉しい、などと。打ち捨てられた心が拾われたばかりか大事に抱きしめられたように柔らかな何かがヒミの身を覆った。


 久方ぶりに高揚した気持ちのまま神里に戻ると「一緒に桜を見てたのは、誰だ?」と声をかけられた。

 見られていたのかと、一瞬目を見開いたヒミだったが、すぐに何でもないように答えた。

「そこでたまたま会った知らない人。」

「…そうか。」

「なんで?何か疑われてるの?私。」

「いや、珍しいと思っただけだ。ただ…」

 言い難そうに続けるトキワに、もしかしたらコウの心を読んでしまっただろうかとヒミは不安になる。あの人は、穢れの中にいるのだ、知られればもしかしたら消されてしまうのかもしれない。

「ただ…何?あの人の心を読んだの?」

「…読もうとした。お前が心配だったから。でも、読めなかった。遠目だったからかもしれないが、ヒミと同じだ。読もうとしても読めなかったんだ。何者だ?本当に知らない人なのか?」

「さっき初めて会って、名前も知らない。」

「そうなのか…。一応、気を付けろよ。」

「うん。」

 トキワの目が見られなかった。万が一読まれてしまえば終わりだ、自分を拾い上げてくれた人が消されてしまうかもしれない。

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