〜兵師のたまごたちの戦い〜

「探知!前方12時の方向から多数のクナイ!」


 探知系能力者が緊迫した声で警告する。試験官が仕掛けたトラップが発動したのだ。


「俺に任せろ!」


 政次が叫び、右手を前に突き出すと、目の前に強烈な風が瞬く間に発生し、クナイを弾き飛ばす。


 大神政次の出身である大神家は、古来より続く家で風の神「シナツヒコ」の子孫であるといわれている。


 他に同じように神の直系の子孫といわれる家が「佐々木」「西行」「天木」「土屋」そして「大神」の合わせて5つあり、五大名家と呼ばれそれぞれの当主と里長、そして政府の重役を含めた会議でこの国を動かしている。


 つまり、五大名家は、絶対的力と権力を手にしている。その家の跡取りである大神政次は、なおさらであろう。


「さらに10時の方向から接近する者あり!」


「もう、我がチームを潰しに来たか、面白い!」


 政次はまるで、勇者を待ち望んでいた魔王のような笑みを浮かべる。


「ほっしー。強化呪文を頼む!」


 義孝が叫ぶ。


「了解!強化呪印!」


 そう唱えると星雪を中心に文字のようなものが広がりチーム全員の身体能力がさらに強化される。


 この世界では、兵士の中でも特に近距離型の兵士は、一般人の比ではないくらい身体能力が高いが強化術式を使うことによってさらに身体能力を強化することができる。


 だが、一度に使える術式は一般に2〜3個が限度とされ、複数の術式を連続使用すると効果が弱まる。


 呪術系能力者は、より強力かつ特殊な術式を使うことが可能である。


「よし! みんないくぞ!」


 義孝が木刀を抜き攻撃に備える。


「おい! お前、奴らがくるのはこっちの方向でいいんだな?」


 政次が探知系能力をもつ者に言う。


「ああ、そうだか……」


「下がってろ」


 政次はその方向に右手の掌を向ける。


「まさか、あいつ……」


 星雪は政次の右手を凝視する。


「はあああ!」


 政次が覇気を発すると右手の掌から無数の風の刃が繰り出され次々と木々を切り倒して行く。その衝撃波に星雪たちは防御姿勢をとる。


「政次!やりすぎだろ」


 義孝は、焦りを隠せない様子で政次の肩に手をかける。


「大丈夫だ。仮にも兵師へいしを目指しているのなら、このぐらいでは死なん。お前ならわかっているだろう? 義孝。」


「そうだが……」


「しょっぱなから飛ばしてくれるな!」


 突然、声が響く。間髪おかずに、切り倒された木々の中から両手に拘束用の黒い縄を持った男が現れ、飛びかかってくる。


千葉ちば! お前のチームだったか!」


 政次はそう叫びながら手を横に振ると強烈な風が巻き起こる。


「政次に義孝、お! ほっしーもいるのか。」


 千葉と呼ばれた青年は、強化術式をかけ、地面を蹴って加速し、風の攻撃をよける。


 彼は千葉周造ちばしゅうぞう。結界帝国最大規模を誇る千葉剣術道場を持つ千葉一族の出だ。千葉家は五大名家に次ぐ家柄の二十名家に属する。


 政次の風を交わした周造は、陣形の最深部まで一気に迫ってくる。


「義孝!」


 政次は振り向きながら叫ぶ。


「了解!」


 義孝は木刀で周造に斬りかかる。しかし、周造はそれをひらりとかわすし、陣形の中央にいた者たちに縄を回し、拘束しようとする。


 しかし、何かに引っかかり、妨げられる。周造は、その反動で縄を離してしまう。


「なっ!」


 周造が振り返るとシールドが宙に浮いており、それに引っかかったのだとすぐさま理解する。


「シュウ! 簡単にはやらせないよ。」


 星雪は前に突き出した右手を下げながら得意げな表情をする。


 そのシールドは、強化術式と対をなすもう1つの基本術式である障壁術式を星雪が使用することによって作り出されたものだ


「ほっし〜」


 周造は、腰に差してあった木刀を抜く。その顔は悔しがりながらもどこか楽しそうだった。


「油断したな、千葉!」


 突如として政次は周造に向けて風を放つ、その攻撃は地面をえぐりながら進んでいく。


 周りにいる星雪たちが巻き込まれてもお構いなしという考えているようだ。


「ぐっ!」


 周造は障壁術式を繰り出し、直撃は避けるがそのまま吹き飛ばされる。風に弄ばれながら鈍い音を立てて木に激突し、その場に崩れ落ちる。


「クズの割にはいい仕事だったぞ。鬼塚」


「ちょっと! 危ないじゃない!」


 涼花が政次に詰め寄る。


「は? あいつらを失ったところで何も影響はない、敵のエース格を倒せたんだ感謝しろ」


「ふざけるんじゃないわよ!」


 涼花が怒りをあらわにすると、それに影響されて周りの気温が一気に下がり始める。


「よく見てみろ」


 政次が指を鳴らすと土煙が晴れ、シールドが現れる。その後ろには、星雪を含めたチームの者がいた。


「ほっしー!みんな!」


 涼花は、その姿を見てホッと胸をなでおろす。


「クズと言っても奴は術式系能力者だ。これぐらいなんとかするだろ。先へ進むぞ」


 政次は涼花に背を向け前に進む。


「見下してるんだか、信頼してるんだか。ほんと本心がわからない奴だね」


 星雪は服についた土ぼこりを払いながら涼花の横に並ぶ。


「本当に信頼してるんならもっと素直になればいいのに!」


 涼花はふくれっ面をする。


「あいつは昔からああなんだ。幼馴染の俺が1番知ってる。根は、いい奴だってことも」


 義孝が星雪の横に並び、肩を叩きながら政宗を擁護する。


「まぁ、あいつの立場もあるし、俺もこの6年間であいつが根はいい奴だって知ったよ」


「そうか、ならいいんだ……」


 義孝は心の底から嬉しそうな顔をする。


「てめえら! 早くしろ!」


 政次が振り返り叫ぶ


「ああ、わかった。みんな! 先を急ぐぞ!」


 星雪たちのチームは再び巻物がある塔を目指して前進を始める。

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