死を呼ぶ指輪 4
一連の授業が終わり、それぞれがクラブ活動に散っていくと、チアリーダーの練習に行く町子の後を、メリッサがついてきた。彼女は、一つ下のクラスで、町子をあれからずっとマークしていたのだ。しかし、チアではないメリッサがここに来ても何にもならないと町子は追い返した。それでも、練習を見学すると言って聞かないメリッサは町子について離れなかった。帰りも、こちらについてきて、屋敷の前まで来ると、ようやく皆の前でぺこりと礼をして言葉を放った。
「いままでくっついてきてしまい、すみませんでした。私、やっぱりここにいる資格なんてありませんよね。これで帰らせていただきます」
そう言って踵を返そうとするメリッサを、町子が止めた。
「待って、メリッサ。あなたなんか事情があるんでしょ。じゃなきゃ、こんな変な行動しないよ。何があったの? 聞くから、家の中に入りましょ」
「でも、やっぱりいいんです。私にそんな資格はないんです。シリンとしての能力がなくなってしまった私には」
「シリンの能力がなくなった?」
友子が、訝し気に聞いてきた。
「そんなことがあるの? いままでそんな話は聞いたことがないわ」
友子のリアクションに、今度はメルヴィンが答えた。
「僕は何かを知っているわけではないけれど、君の言い方だと、何か事情があるようにしか思えない。君が本当にシリンならば、町子の伯父さんたちにも分かるはずだ。事情を話してみるといいよ」
「本当にいいんですか?」
メルヴィンを始め、そこにいたみんなが頷いて応えてくれた。輝は、メリッサをレモンバームのシリンとして感じていたし、彼女の言うことが嘘だとは思えなかった。ただ、何かどこかに引っかかるものがあった。
メリッサを連れた一行が屋敷に着くと、今日は天使も悪魔も出払っていた。輝の母に聞くと、クリスマスが近くなってきたからだという。ああ、もうそんな時期になってきたのか。どうりで寒くなってきているわけだ。そうみんなで話しながら、芳江の淹れてくれるお茶を待った。
お茶が届くと、メリッサが話を始めた。
「金曜日に、私の姉が足をくじいたんです。姉は陸上選手を目指していて、その日も練習をしていました。姉も私と同じシリンで、同じような能力を持っていました。私は病気を癒す薬を作る能力、姉は、けがを治す薬を作る能力。私と姉は二人で一つなんです。でも、私たちは自分の病気やけがを自分で癒すことはできません、なので、この地区を往診しているフェマルコート先生に頼もうと思って、こちらに向かいました。すると、途中で携帯に父から電話が来たんです。先生はもう来ているって。それで、帰ってみたら、姉の部屋に一人の男がいました。フェマルコート先生は私、遠目から伺ったことがあったので、すぐに違う人間だと気が付きました。その男に声をかけると、そいつは笑って、帰っていきました。それから、姉は非常に高い熱を出して寝込みました。なので、私は必死で解熱の薬を作って姉にのませました。でも、熱が下がらなくって。どうしたらいいのか、もう分らないんです。今思えば、足首の捻挫であんなに熱が出るなんておかしいし、あの偽医者が何かをしたことに間違いはないと思うんです。でも、証拠がなくて。だから、見るものと戻す者である町子さんと輝さんにお願いして、私の家に来てもらおうかと」
皆は、その話を聞いて考え込んだ。
こういった問題はシリンの根幹にかかわってくる問題だ。メリッサの能力がなくなったにしても、偽医者が何かをしたにしても、輝や町子だけでどうにかなる問題ではない。
ここは本物の医者であるアースを待つか、シリンに最も詳しい人間であるクリスフォード博士に電話で聞くか。どちらにしろ、メリッサに少し待ってもらわなければならなかった。メリッサの姉が熱を出して苦しんでいる以上、それを放っておけば命にかかわりかねないだろう。そんなことは素人でも容易に想像できた。
「メリッサ」
輝が、真剣な顔をしてメリッサを見た。
「ここで少し待っていてくれ。これから、二手に分かれて解決策を探る。俺と朝美は体力があるから、おじさんの場所が分かったら飛んで行って呼んでくる。町子と友子は、クリスフォード博士に電話をして事情を話す。それで、答えがいくつか得られるはずだ」
メリッサは、頷いた。それでも頭を垂れて震えていた。朝、見せたような元気な姿はここではまるで見られなかった。
すると、メリッサの肩を叩いて、今度はメルヴィンが輝たちに食って掛かった。
「おいおい、僕はどうなるんだい? 仲間外しは感心しないぞ」
「仲間はずれになんて、しないさ、メルヴィン」
輝は、そう言ってメルヴィンの肩に手を置いた。
「メルヴィンは、メリッサと一緒に彼女の家に行って、真相を究明してほしい。どうして彼女の姉が熱を出したのか。その原因を探ってほしいんだ。それと、例の医者が来たら、引き留めておいてほしい。彼からも事情を聞かないといけないからな」
メルヴィンに与えられた仕事は、ある意味最も危険な仕事だった。責任も重い。だが、メルヴィンはそれを快く受けた。輝たちの力になれるのが嬉しかったからだ。
皆がそれぞれの役割を理解して受けると、それぞれが、それぞれの役割を果たすために散っていった。
芳江の淹れたお茶は、きちんと全部なくなっていた。
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