解答編 浪穂の発表
「話の最後で、フランセスが唐突なメタ発言をするもんだから、びっくりしたぞ」
重楠は呆れたようにそう言って、原稿の束を机に置いた。すでに衣瑠と浪穂は、読み終わっているようだった。
「まあ、表現技法だよ、表現技法」
「それで、シンキングタイムはどうするんだい?」
「そうだねえ……」恵理は壁の時計を見た。「今から三十分、でいいでしょ」
「三十分ね。わかったわ」
ピリリリリ、と恵理のスマートホンからアラームが鳴り響いた。「三十分、経ったよ」と彼女が言う。「さて、誰から推理を発表する?」
「私からでもいいですか?」そう言って浪穂が、手を挙げた。
「皆、浪穂君から発表でいいかな? ……いいみたいだよ」
「OK。それじゃあ、発表させてもらうよ」
浪穂の発表
「初めに言っておきますと、犯人は、ノーマ、アメジスト、フランセスの中にいます。なぜかと言うと、結界の中には、その三人しかいなかったからです。結界には、『暗証呪文』がないと入れませんから、外部犯という可能性ありません。
そして、私が違和感を覚えたのは、冒頭の、犯人が木箱を倒すシーンです」
「なぜ、引っ掛かりを感じたんだい?」
「犯人は、木箱を倒したことを、『気にしていられない』の一言で済ませているでしょう? これがおかしいです。
武器のたくさん挿さっている木箱を倒したら、当然、大きな音がするでしょう。眠っている路次が、起きてしまうかもしれません。あるいは、路次でなくても、他のパーティメンバーが、目覚めて、様子を見にくるかもしれません。
動揺したり、焦ったりして当然のはずです。なのに、その描写がありませんでした。すなわち、犯人は、音を消す術を使っているということじゃないでしょうか。
この時点で、フランセスは犯人候補から外れます。容疑者は、消音魔法を使えるノーマと、消音眠法を使えるアメジストの、二人です」
なるほど、なるほど。恵理がそう言って、うんうん、と頷いた。
「仮に、アメジストが犯人だったとしましょう。アメジストが、夜中に目を覚まし、路次を殺して、再び眠りについた。しかしそう考えますと、おかしな点が一つ、あります」
「おかしな点、って?」
「枝ですよ。フランセスのテントの入り口の真上、バリアに乗っかっていた、枝です。
結界眠法は、術者が眠っていないと使えません。つまり、アメジストが一度起きたなら、その時結界は解かれ、枝は地面に落ちているはずなんです。
なのに枝は、翌朝も、同じ位置に乗っかったままでした。ということは、アメジストはずっと、寝たままだったのです。路次を殺してはいません。
結界眠法を使っている間は、他の眠法は使えないから、何か眠術を使って寝ている体を動かし、路次を刺した、ということはありません。また、協力者がいて、そいつに、落ちた枝を乗っけてもらった、という可能性も低いでしょう。枝は絶妙なバランスを保っています、載せるのは至難の業です。
以上の推理から、犯人は、ノーマ・フランクランドです」
浪穂はそう言った後、ぐるり、と他の三人の顔を見回した。「どうですか、私の推理は? 自分では、いい線いっていると思うんですけど」ふふん、と笑った。
いいや、違うな。重楠はそう言った。「それは、恵理の仕掛けたミスリードだ。浪穂、お前は、そのミスリードに、すっかり嵌まってしまっている」
「なんですって?」浪穂は怪訝そうな顔をした。「どういうことです、それは?」
「それは、俺の発表で言うことにしよう」
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