紅桜

ういんぐ神風

あらすじ

 芸術とは二つの極によって生み出される。片方は作品を作る側である、芸術家。そしてもう片方は作品を鑑賞する鑑賞者である。二つの極には火花のようにぱちぱちと放ちそれが初めて芸術が生み出される。

 マルセル・デュシャンの言葉の意味だと、志方空はそう認識している。


 志方空は元芸術家だった。今は平凡生活を送っている高校生。

 父は天才芸術家であり、死後には最高傑作『桜の女性』シリーズの連続作品が発見されこの世を驚かされた。

 両親が他界してから少年は筆を折り、一人で病院に入院している妹、志方舞を扶養していた。

 世間からつまらない似顔商売をし、生活をある程度まで自立でできていた。

 将来、芸術を作らないと誓った彼であったが、それを見過ごせないとある人物がいた。

「志方空。あなたは天才芸術家。だからあなたが描いた絵は、全て芸術よ」

「お前は……白河ことりだっけ?」

「違うわよ! 髪の特徴だけしか、同じじゃない!っていうかあなたなんで知っているのよ!」

 赤い髪をなびかせて美しい少女。わざと名前を間違えたその少女は九条彩花。世界有数の企業グループ、九条財閥の娘。少年を評価しいつも付きまとう存在だった。

 少年にとってはある意味鬱陶しい人間だが、権力を握っている人間には目立ちたくない立場だった。

 それより、少年には人生で大切なものがある。

「もう! お兄ちゃんたら! 部屋に入る前にノックしてって言ったでしょう?」

「すまん。すまん。寒さで頭が回らなくて

 入院している妹の舞だった。

 年齢では中学三年生であるが、抱えている病の影響で学校に通う事は出来なかった。

 小柄で、青い瞳に白髪。肩の白雪のような肌。妖精がいた。

「あ、そうだ。お詫びってわけじゃないが、お土産があるんだった」

「ありがとう。お兄ちゃん」

妖精の微笑みに恭しく答え、そっと彼女の手を取る。

 ―――その手はもろく、今にも壊れそうに細い。

 ―――その微笑みは無邪気で無垢なままで。

 ―――妖精は、いまだこの鳥籠の外を知らない。


 少年は誓った。この妖精を守らなければいけない。

 これは両親から託された任務でもあり、兄としての義務でもある。

 舞はたった一人の家族。だから、なにがあってもこの妖精を守らなければいけない。

 三年前に亡くなった両親のためにも。

 自分の存在意義をかけて、最後まで。


 これは元芸術家の志方空の存在意義の物語。

 少年は少しずつ前に歩。小さな願いを抱え、生きていった。

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