看取り人の本性

木沢 真流

第1話 その人は何人も看取ってきた

「最期をあなたに看取ってもらえるなんて、私は本当に幸せだわ」

 男はうんうんとうなずいて、死にゆく女性の話を聞いていた。

「あなたの亡骸なきがらは、バラの花びらで包み、私はそれをいつまでも抱き続ける事でしょう。あなたが天国で幸せな時間を過ごす時、私はいつでもあなたに問いかけます。あなたが幸せでいられるように」

「愛してるわ、あなた」

 女はその話を聞いた5分後、息絶えた。幸せそうな死に顔だった。


 その30秒後、男はチェーンソーで女の体をまず胴体から切り刻み、その後手足をばらばらにすると、5分以内に用意してあった穴に埋め、10分以内にそのまま埋めた。墓が完成するまでに30分以内、それが男のポリシーだった。



 男の名はラファエル。もちろん愛称で、本名を知るものは誰もいない。

 彼の元には何故か死ぬ直前の女が訪れる。彼が引き寄せるのか、女が求めてくるのか、それは誰にも分からない。


 そんなラファエルの元へ今日も余命わずかな女が訪れる。

「——あなたって本当に優しいのね、死の恐怖しか知らなかった私をあなたは変えてくれたわ」

 男は満面の笑みで、うんうんと頷いていた。

「私もあなたに会えてこの上なく幸せです。あなたの亡骸なきがらは、あなたの好きなチューリップの花びらで包まれ、私はそれをいつまでも抱き続ける事でしょう。天国にいるあなたに私は毎日祈ります。あなたが幸せでいられるように」

 その言葉に涙を流した女はその8分後に息絶えた。これまた幸せそうな死に顔だった。


 その30秒後、男は隠してあったチェーンソーのエンジンを掛けた。そして慣れた手つきで女の胴体を切り刻む。その後手足もばらばらにして埋め、見事な墓が完成した。所要時間は22分、30分以内というポリシーは守られ今回も男は満足そうだった。



 ラファエルにも恋人はいた。この幾度も繰り返された作業を毎回手伝っていたマリアという女性だった。もちろん、ラファエルに寄り添う女にはその事は気づかれないようにしていたが。

 

 ある日マリアが病気になった。もう余命もあとわずかとなったとき、マリアはラファエルにこう言った。

「あなた、きっと私が死んだら、30秒後にはチェーンソーで胴体を切り刻んで、30分以内に埋めるんでしょうね」

 ラファエルは笑いながら答えた。

「君は違うよ、だって君は本当の恋人だ、今までの女性とは違う。君の亡骸なきがらは君の大好きだったスイートピーの花びらに包まれ、それをいつまでも抱き続けるよ。そして天国にいる君をいつまでも想い続ける、約束するよ」

 そういって男はマリアをじっと見つめた。

「そうね、でも本当かしら? 嘘をついたときのために私、鉄パイプを背中に隠し持ってみようかしら。そうすればあなたは30秒では私の胴体を切り刻めない。きっとお墓を建てるまで30分以上はかかるでしょうね」

 男は笑い飛ばした。

「おいおい、悪い冗談はよせ。体に毒だ」

 その10分後マリアは息絶えた。


 その30秒後、ラファエルはベッドの下のチェーンソーでマリアの亡骸を胴体から切り刻んだ。その後手足をばらばらにして埋め、墓が完成した。今回の所要時間は26分、なかなかの出来だった。

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