第2話 異世界旅行における、諸注意の時間です。
Oh! まさかツアーの参加者が、あのイケメンとふたりだけとは、思ってもみなかったでーす、ハハーン。
そりゃ、微妙に外人っぽい嘆き方になるよね。
会話とか無理ですし。
さっき、無難な挨拶はしたけど、それ以上はもうキャパオーバーっす。ぐだぁ…。
「テンナさん、聞いてますか? 大事なことなので、もう一回説明しますよ」
「はいっ、すみません! お願いします」
びしっと背筋を伸ばして座席に座り直す。
たった三人……運転手さんを入れても四人しか乗っていないマイクロバス。
通路を挟んで私の右隣には、羨ましい体躯のマッチョ系イケメンであるところの『ネゴ ヒトセ』氏が乗っている。
「これから向かう世界の名は『アスタリスク』で、国の名前は『アス公国』です」
アスタリスク……*←これ? え……アスって、ASS? 英語でケツだよね? ええと、BLを囓った過去のある私には、刺激の強い名前なのですが。指摘したら、色々不味そうなのでギュッと口元を引き締めて添乗員さんを見る。
私の真剣な様子(誤解)に、添乗員さんは頷いて先を続けた。
「命の重さは、江戸時代くらいだと思っていて下さい」
ん?
「剣も魔法もあります!」
おお!
「魔法があるので、電気という文明は発達しませんでしたが、魔法は電気よりもよっぽど便利なので大丈夫です! 着火も飲料水もちょちょいのちょいです☆」
「はいっ! 先生! 私達も魔法が使えるようになるんでしょうかっ!」
素敵すぎる! 異世界で、魔法! なんてファンタスティック! かみさまほとけさま
ばしっと挙手して投げた質問に、顔をガン見された。
え?
彼女の可愛い系の頬に汗が伝う。
「…………えっとぉ…、お二人は勿論、こちらの世界のヒトなので、魔法は使えません」
「ちょっと待って、魔法ありきの世界って言いましたよね?」
ゆ~っくりと視線が逸らされる。
私の背中に冷たい汗が伝う。
ゆ~っくりと視線が戻ってきて、ほっと胸を撫で下ろした私を裏切るように、彼女は肩をすくめて「てへっ☆」と舌を出して小首を傾げた。
「NOぉぉぉぉぉっ! キャンセルッ! キャンセルを要求するっ! 命の価値が低い世界で、魔法なしで、生きていけるわけないでしょぉぉぉ!」
「無理ですっ! もう、無理なんですぅぅぅっ! 仕方ないんですよぉぉ、ウチんとこの神様がですねぇ、隣の世界で異世界召喚してるの見ちゃって、どーしてもウチの世界にも異世界人を呼ぶんだって! 呼ばないと天変地異起こしちゃうぞって言うんですものぉぉぉ!」
「Oh! NOッ! オマエ、さては異世界人ね!?」
それからは阿鼻叫喚だった(主に、私と彼女が)。泣き叫ぶ、帰せ、帰さない、帰せ、無理です、の応酬。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ――」
「はぁ、はぁ、はぁ――」
肩で息をしながら、互いを睨む。
息切れにより会話が止まったその時、低い声が割って入った。
「取りあえず、そっちの世界に行けばいいんだろ。そうすれば、そっちの神サマとやらが納得する」
ずっと腕を組んで瞑想していたネゴ氏が、ゆっくりと目を開いて添乗員を見る。
「え、ええ、そうです」
頬にかかった乱れた髪を手で直しながら、彼女が頷く。
「それなら一度そっちに行って、それからすぐに引き返せばいいんじゃないのか。そうすれば、義理は果たせる」
「……なぁーる」
超納得。
バスは一路、異世界へ向かっていた。
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