第17話2.気持ちの変化
私は最近ちょっと機嫌が悪い。
杉村先生から退院の話を訊いてからだ。
叔父と叔母はもう私の事を引き取るのを拒否したこと、児童福祉事務所の施設に入らなければいけない様な事を告げられ、その上……退院すれば杉村先生とも会えなくなってしまう。
機嫌が悪い本当の理由はそれにあるんだけど……
まだ入院しているからこそすぐ杉村先生にいつでも逢える。そう病院と言う、私が入院しているからこそ先生との繋がりが保たれている様に思っている。
でも、退院すればその繋がりも切れてしまう。
本当ほ機嫌が悪いんじゃなくて物凄く寂しい気持ちなのが本音。
わざと具合悪いふりをして入院を伸ばすことだって出来ない訳じゃない。
……でも、そんな事したっていずれは退院しなければいけなくなるのは確かな事。このまま、一生ここにいることは出来ない。
出来る事なら退院した後も私は杉村先生と繋がっていたい。
そのつながりがどんなに細い糸であっても今はいい。
今の私では普通に同い年の子の様にその気持ちを伝える事させ大変?ううん、今は出来ない。
でも彼とはこれからも繋がっていたい。
そんな願望がずっと湧いてきていた。
この気持ち、前にもずっと持っていた。
その人とずっと繋がっていたいと言う気持ち。
誰とだったかは今だ解らないけど、でもその時の気持と同じだと言う事はこの躰が教えてくれている。
私は今、杉村先生を失ったら本当に何もなくしてしまいそうな気持になる。
そうなればどうすればいいんだろう。
また生きる希望?正直その生きる希望と言うものが今は良く分からない。
でも、何とか一つ前に進まなければいけない様なそんな気持ちと焦りが交互にやってくる。
……このままではいけないと言う気持ちが。
「やぁ、お姫様。今日のご機嫌はいかがですか」
最近先生は私の事をお姫様と呼ぶようになった。
あの出張から帰った後の約束。
約束通り先生は私を病院内のカフェに連れて行ってくれた。
しかもそこはオープンテラスの席。
ちょっとリッチな気分……と言うよりは、病院のコンビニで買った紅茶とケーキをホールのテラス席で一緒に食べただけなんだけど……
それでも私には十分楽しめた時間を過ごした。
担当の看護師さんが私達を見つけて
「あら、デートですかぁ」なんて言われた時なんか、何だろう心臓が急にきゅんとしめられてドキドキしちゃった。
その感じも今思えば物凄く懐かしい感じだったように思える。
今の私はあの恐怖の想いよりもなんだろう懐かしい温かな気持ちの方が勝っている。だから余計に先生との別れがつらくなる。
「今日は少しご機嫌いいみたいだね」
「そうぉ」
「うん、だって今日はすぐに僕の事見てくれたじゃないですか」
「たまたま先生の姿が私が見ていた方から入って来ただけじゃない」
んーー、なんでいつもこうやって意地を張るんだろう。もっと素直になりたい。
本当は先生の事待っていたんだよって、すぐに言えればいいのに。
「今日はさぁ、ちょっと相談があるんだけどなぁ」
少し真剣な顔つき……でもやっぱり憎めないと言うか、真剣そうでいてそう言う事をあんまり感じさせない顔。ただ、ちょっと気にはなるんだけど。
「あのさぁ、退院後の事なんだけど……」そう言って彼は少しくちをつぐんだ。
私の表情も次第に曇ってくる。
「これは一つの提案なんだけど、児童福祉事務所の人とも相談したんだけど、あのさ、退院後蒔野さんがもしよければ、僕の知り合いの所で生活してみるのはどうかなって」
「知り合いの所……」
「うん、ちょっと訳ありのところなんだけど、今その、ちょっと年のいった……と言っても老人とかじゃなくて、何だろう年代で言えばちょうど僕のお袋と同じくらいの人なんだけど、今一人暮らししているんだ。
旦那さんも早くに亡くしてね。
この病院、大学からもそんなに離れていない場所なんだよ。
そうすればこれからの通院も無理なく来れるし、何より一人暮らしのお母さんが寂しがらずに済みそうなんだよね」
「それってどういう事なの」
先生はまた黙り込む
「叔父さんと叔母さんが、私の引き取りを断ったのは訊いたよ。
正直もう私もあそこには戻りたいとも思わない。
それに福祉事務所の人からも訊いた。通常18歳になれば施設からは出て行かなければいけない年だって、でも私は今この状態だから最大でも20歳までは何とか保護は出来るかもしれないって。
それでもこの状態で施設の生活を行うのには私にとってかなりのリスクがあるかもしれないって言う事。それに言われた、施設では保証人とかになってくれる人はいない様な事。
それならばなんとか叔父と叔母の所であと数年落ち着くまで我慢しなければいけない事も……でも、私、出来る事ならこのままここにいたい」
先生だって私のこの気持ち解っていると思っていた。
それなのに、今度は見もしらずの、誰かわりもない人の所に行けと言うの……そうしたら、多分もう先生との糸は切れてしまう。
……そ、それでも今の私には選択する余地なんかないことも……十分解っている。
「解っているよ……」そっと杉村先生が私の横でつぶやく様に言う。
でもこれは先生にはどうしようも出来ない事なんだ。
それでも先生はこんな私のためにここまで親身に対応してくれている。
もうそれだけでも十分じゃないのか。
これ以上私のわがままで先生を苦しめることは出来ない。
「その人って先生とどんな関係の人なの」
その言葉の後、彼、杉村先生の瞳からは悲しみと苦しみしか感じさせられない暗い瞳に変わっていった。
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