トラブル・スクランブル
3
バスコルディア中央区、中央広場。その一角。
ハンリが以前訪れた時はちょうど爆裂オレンジ祭りの最中だったので露店も殆ど無い状態だった。しかし、現在は違っている。
勝手気ままに出されている露店がまるで迷路のように複雑な道を形成していた。
その密集具合はなかなかに壮観であるが、今日の目的は買い物ではない。
「う~ん、記事によると……東入り口の近くでやってるそうなんですけどねぇ……あ! あったあった! ありましたよ! 間違いありません!」
子どものようにマイディがはしゃぐ。その瞳は興味の対象を見つけた子どものようにきらきらと輝く。
スカリーはやれやれとばかりに肩をすくめ、ドンキーは特になにも変化がなく。ハンリは苦笑いを浮かべている。
そして、マイディが指さす先には大きな看板が掲げてあった。
〈明けの開拓団新団員募集会場〉
(……頭痛くなってきたぜ)
どんよりとした目でスカリーはそれを眺める。
しかし、集まっている観衆はかなりの数に
一段高くなっている壇上には、まだ誰の姿もない。
「ほらほら! 行きますよ三人とも!」
群衆をかき分けながらマイディはどんどん前に進んでいく。
「今からわくわくしてしまいます。誰が出てくるんでしょうか? 団長、という可能性は低いのでしょうけど、やっぱりわたくしとしてはコルゴア・マーキストに会ってみたいですね」
「……ったく、いい迷惑だ。こんな茶番に付き合わせられるとはな。俺もとんだお人好しだぜ。こんなにお人好しだと、悪いヤツにだまされないか自分が心配になってくるな」
「その心配はないさ。どうせ今回の件は気になっていたんだろう? 私には分かるよ、スカリー」
「おめえに何が分かるんだよ。脳みそまで筋肉になってやがるクセによ」
「……スカリー、ちょっと見えない」
「多分見ねえほうがいいぞハンリ。教育に悪い」
「子ども扱いしないで」
「どっちもこっちもお嬢様方は自己主張がはっきりされてやがる」
帽子を潰すように抑えると、スカリーは一歩横にずれる。
その部分にハンリが体をねじ込んで、四人ともが壇上をはっきりと見えるようになった。
こつ、こつ、こつ、こつ。
革靴が木の板を叩く音と共に、一人の人物が壇上に上がる。
手入れの行き届いた
「皆様! 大変長らくお待たせいたしました。私は今回、明けの開拓団再結成において、スポンサーとならせて頂きました、コルクエントと申します」
張りのある声で壇上のうさんくさい男、コルクエントは群衆に呼びかける。
大げさな身振りを交えたその言葉に、歓声が起こる。
「うぅむ。スポンサー、ですか。見るからに怪しいのですけど……まあ、これから元団員様達が登場されるのでしょう」
とことんまで前向きのマイディだった。
「さて、それでは私からのつまらない挨拶は抜きにして、今回の決断をしてくれた、あの伝説的開拓団、“明けの開拓団”の元団員達に登場して頂きましょう。
コルクエントは言いながら脇に寄る。
ごん!
重々しい足音と共に、一人の巨漢が壇上に上がる。
ドンキーよりは多少背が低いが、それでも長身のスカリーよりも背が高く、そして服を着ている上からでも分かるほどに筋肉が隆起していた。
岩を思わせるような肉体の上には、これまたごつごつとした顔が乗っている。
「ドグマン・ドーハンド! 通称、DD。彼は明けの開拓団ではこう呼ばれていました……破壊者、と。その鍛え抜かれた肉体から繰り出される一撃は防御不能! 彼の前ではドラゴンさえもおびえる子どものようになってしまったのです!」
勢いよくコルクエントが解説を挟む。
イメージにぴったりだったためか、観衆は息を呑む。
これが数々の伝説を打ち立てた団員なのか、と。
一方、スカリーとドンキーは複雑そうな顔をしていた。
マイディは目を輝かせ、ハンリはドンキーのほうが大きいので今ひとつの反応である。
黒い影が音もなく壇上に上がる。
痩せぎすで、性別不明の人物だった。
全身にぼろぼろの黒布を巻き付けており、体のラインがはっきりしない。
顔部分もヴェールのようなもので覆ってるために、ぱっと見は布の塊が動いてるようにしか見えなかった。
「クルフシュ・ハシャネロ! 彼、いえ彼女かも知れません。この私さえもクルフシュの顔を見たことがないのですから! クルフシュの暗号名、それは黒影。音もなく、痕跡もなく、静かに、そして確実に任務を遂行するクルフシュは闇の存在です。そう、明けの開拓団の影として活動してきた者さえも、今回参加しているのですッ!」
やや興奮した様子でコルクエントは更に声を張り上げる。
大分観衆のボルテージも上がってきているようだが、反対にスカリーは冷め切っていた。
誰にも悟らせないようにこっそりとドンキーを小突く。
(おい、いつまでこんな茶番に付き合ってるつもりだよ。俺は帰るぞ。おめえらは勝手にやってろ)
(まあ、待ちたまえ。最後まで見てみてもいいんじゃないかな?)
小声でのやりとりなのでマイディも気がつかない。
そして、壇上に四人目の人物が登場した。
女だった。ただし、肌もあらわな格好の。
くねくねとなまめかしく体を揺らしながら女は壇上に上がる。
「マーネロ・リネリア! 彼女を見て、実力を疑う方もいらっしゃるかも知れません! しかしながら、それは余りにも当然のことでしょう。なぜならば、これだけの美貌の持ち主が二刃の暗号名で呼ばれていたことなど、私でさえも最初は信じることが出来ませんでした。しかしながら、私は知っております! 彼女が超一流の腕利きであることを! 彼女が操る
不意を突かれたのか観衆は一瞬静まりかえった後、一気に沸く。
単純に美女に興奮しているだけの者もいたが。
「以上三名が、明けの開拓団の再結成を私に提案してきてくれました! 私は一も二もなく快諾しましたが、超一流の彼らといえども仲間が必要です。よって、今日! 新生明けの開拓団の団員を募集するという行動に出たのですっ!」
三人が不敵に微笑む。クルフシュだけは表情が分からなかった。
「おぉ! まさか女性もいたとは予想外ですね! これはわたくしにもチャンスが……って、あら? スカリー? 司祭様?」
二人が消えていた。
「ハンリちゃん、二人を知りませんか?」
とりあえず訊いてみる。
「……えっと、あっち」
困ったような顔でハンリが指さした先には、迷い無く壇上の前まで行っているスカリーとドンキーがいた。
「なにやってるんですか。あの二人?」
「さあ?」
困惑している二人をよそに、スカリーとドンキーは壇上の四人を見上げる位置に到着していた。
「……ぅおい! この腐れピエロ共がっ! テメエらがクソをひり出すのは自由だが、ケツ穴を塞ぐのも自由だってことを知ってんだろうなァ⁉ あぁ⁉」
「……私はね、温和なのだよ。しかしね、どうしても
激しくキレるスカリーと、静かにキレるドンキーがそこにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます