第91話(客人)

 最後に記憶がある時の話を俺はしてもらうことにした。

 ただどの程度の情報が記憶されているのかは気になったが。

 頭を打って一部記憶が消えているなどという事はありませんようにと俺は心の中で思った。


 そこで目を覚ました三人のうちの一人のタタが、何かを思い出そうとするかのように目をつむって呻いて、


「確かあの日は他の二人、マノとチズ一緒に、ここの宿の一階の酒場にやってきていたんだ。確か畑で水やりをやって昼食を食べて……俺は久しぶりに午後時間があったからやってきたんだ。そこまで大きな村ではないから同年代の人間はそんなにここは多くなかったからよくつるんでいたんだ」


 そう言って話し出したタタ。

 あった出来事を思い出す順序で話しているので、若干時間が前後していたり、タタの個人的な感情なども入っていたが、内容はこうだった。

 いつものように友人とこの酒場にやってきたタタは男同士で話していた。


 折角だからと言って酒も注文しながら、カード(トランプというらしい。その昔異世界人が作った遊び道具だそうだ。俺もよく知っている)で遊んだりしつつ近況について話していたそうだ。

 そうしていたら、マノが一人抜け駆けして彼女を作った事が発覚した。

 しかも惚気話を延々と繰り返すのでちょっとした喧嘩のようになりつつ、カードゲームで負けたらマノが数日間酒を驕ることになったらしい。


 こうして楽しくゲームをして、マノをタタ達はからかっていたのだが、そこで、ある人物に声をかけられたらしい。


「ある人物?」


 そこで俺が聞き返すとタタが、


「そうなんだ、黒いローブを着てフードをかぶり顔を隠した人物で、髪の色はどこにでもいるような茶色の髪だった。確か一緒に“人形”のような変わった格好の女を連れていたな。あまりに無表情すぎて、君が悪かった」


 そんな話を聞いてロゼッタが反応した。


「その連れていた女はどんな格好だった? もう少し詳しく話を聞かせてもらえるかしら。後はその女の事を、その怪しい人物は何と呼んでいたかも教えてもらえるかしら」

「あ、ああ……確か……」


 ロゼッタの剣幕に押されたらしいタタが口籠ってから、


「“ミコ”と呼んでいた記憶がある。そして服装は……」


 そう言って説明された服は、どこかの学生服のように聞こえた。

 だがそれでロゼッタは確信したらしい。


「その子は、私達の国の“客人”よ」


 そう言い切ったのだった。




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