第283話「勧誘」


「きゅぅ~……」 ← 気絶してる朝倉さん


「じゃあ、俺は屋上を確認してくるから、姉ヶ崎は朝倉さんが起きるまでここで待機な」

「え!? センパイ、わざわざ屋上に行くんですか?」

「……だって、夜の屋上に女子生徒がいたって目撃情報は本当なんだろ? だったら、一応は確認しなきゃダメだろ?」

「どうせそんなのゲス谷センパイが適当に作りだした噂話ですよぉ~! てか、この場所で気絶した朝倉センパイと残されるのも中々怖いんですけどぉ……キャピィ……

「大丈夫だよ。屋上は本来なら鍵がしてあるはずだから、それを確認してすぐに戻るから」

「うぅ……本当ですね? 早く戻ってきてくださいよ!」

「あいあい……」



(なんだよ。姉ヶ崎もこんなことするわりには怖がりだな。よし、これはドッキリの罰として鍵もあるし屋上で十分くらい時間をつぶして、姉ヶ崎を放置してみようかな?)






「――よし、このドアの先が屋上だな。鍵が閉まっているのを確認して――って……鍵が開いてる……だと?」


(どういうことだ? 俺はまだ屋上の鍵を使っていないぞ……?)


「まさか、本当に幽霊……? とりあえず、屋上に入って確認するしかないか……」


 スカカカ、カァ~ン…… ← 錆びた屋上のドアが開く音


「あら……こんな時間にお客さんかしら?」

「ッ!?」


(うわっ! マジで女の子がいたよ……。人間か? そ、それとも――)


「ふむ『E』か……」


(この桃井さんにも引けを取らないデカさ……間違いない。人間だ!)


「……何がかしら?」

「あ、いやいや! って……えっと、俺は生徒会の者なんだけど……

 き、君は……?」

「……千津……ぇ」

「え、千津? 千津さん?」

「ウフ……そう。私の名前は『千津ちづレミ』よ♪ 貴方は……生徒会ってことは二年生よね?」

「あ、ああ……俺は安藤だけど……です」

「そうなのね。なら、私の方がセンパイね♪ だって、私は三年生ですもの!」

「えっと……そんな受験で大変なはずの先輩がこんな真夜中の学校で何をしているんですかねぇ……?」

「ウフ、そんなの決まっているでしょう? 夜の学校……と言えばやることは一つ……」

「そ、それって……」


(ま、まさか――


『例えば、一人の女子生徒が誰かと夜の学校の屋上に忍び込んで……その場で何かしらの揉め事が原因で相手を殺害しちゃったりしてだよ?』


『女子生徒は誰かが屋上に来る前に隠した死体を夜中の間にこっそりと別の場所へ捨てに行くの……』


『でも、一度に多くの『もの』は運べないから、女子生徒はそれを細かく『分けて』毎晩少しづつ『それ』を何処かに捨てているんだよ……』


『もしかしたら、まだ屋上の何処かにその『残り』が――』


 ――ほ、本当に!?)


「天体観測よッ!」

「ですよねぇ~……」


(うん、知ってた……)


「しかし、何でわざわざ夜の学校に忍び込んでまで……てか、屋上の鍵はどうやって開けたの?」

「ウフ、屋上の鍵が一つだけって誰が決めたのかしら? そう、実はここにも代々天文部にだけ伝わる屋上のスペアキーが存在しているのよ!」

「はい、没収~♪」

「あぁ!? 先代の部長から引き継いだスペアキーが!? 返してよ! このドロボー!」

「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ……。そもそも、屋上は生徒立ち入り禁止なんだけど……」

「フン! だから、こうして夜にこっそり忍び込むしかないんじゃない! うぅ……まだ部員がいたころは天文部だけは屋上の鍵が貸し与えられていてこうして放課後ギリギリまで天体観測することができたのに!」

「それがどうして、こうなったんですか?」

「先代の先輩達が卒業して部員が私一人になっちゃって……」

「なるほど……」


(つまり、それで天文部が活動できなくなったと――)


「放課後ギリギリだと星がよく見えないから、夜中の学校にこっそり忍び込んでいたのが先生にバレちゃって、鍵も没収されちゃって屋上が使用禁止になっちゃったのよね♪ テヘキャピ!

「全面的に自業自得じゃねぇか!?」

「だぁ~か~ら! その没収されに前に作ったスペアキーを奪われちゃったら、屋上に忍び込めなくなっちゃうのよぉー! お願い! 見逃して!」

「いやいや、そういうわけにもいきませんよ。だって、これでも生徒会だし……」

「そうだ! だったら、貴方が天文部に入ればいいのよ! ウフ、生徒会の身内をこっちに入れてしまえば不正もやりたい放題に……」

「いや、普通に入りませんけど……?」

「なんでよ!? 貴方、生徒会なんてやっているくらいだから部活入ってないんでしょ!」

「生徒会なんてやっているから、部活なんて入る暇もないんだよ!?」


(なんなのこの先輩!? すげぇ、調子狂うんだけど!)


「分かった! 今、天文部に入れば……なんと、私が君の彼女になってあげちゃうぞ♪」

「あ、彼女なら間に合っているので結構です」

「え……もしかして、君って二次元じゃなきゃ満足できないタイプの……」

「れっきとしたリアルの彼女だよ! すみませんねぇ!? こう見えても俺『彼女持ち』なんですわ!」

「あ、うん……そうだよね。男の子って『見栄っ張り』だもんね……うん。お姉さんわかってる……ヨ?」

「この先輩……すげぇ、ぶっ飛ばしてぇ……」


(いやまぁ、ぼっちの俺に彼女がいると言われて信じれないのも分かるけどね?)


「むぅ! しぶといなぁ……せっかく、仲間にできるかと思ったのに……」

「そもそも、天体観測なんて興味ないですから……」

「なんだとぉー! じゃあ、君にお星さまの素晴らしさをおしえてあげましょう! ほら、こっちのフェンスに来て! ここから眺める夜景とか絶景なんだから!」

「いや、俺も下に人を待たせてるんで帰りたいんですけど……」

「……なんだ。君は一人じゃないのかぁ~。ちぇ! 一人ぼっちの童貞男子なら勧誘しやすいと思ったのに!」

「そろそろ、いろんな意味で警察に突き出しますよ?」

「アハハ、冗談! 冗談!」


(まったく……この学校には変な奴しかいないのか? まともなのは、俺と朝倉さんくらいだな……)


「じゃあ、もう帰るんで……」

「うん! じゃあねぇ~バイバイ♪」

「……いや、何言ってんですか? 先輩も帰るんですよ。屋上は立ち入り禁止なんですから……」

「えぇ~! いーやーだぁ~! 私はここでもう少し星を見ていくんだからぁ~!」

「先輩が後輩に駄々をこねないでください……」

「ねぇ? やっぱり、私ともう少しここで星を見ていかない? 今なら私と――」

「いや、だから、その手は――」

「この『Eカップ』も一緒についてきますよ……?」

「…………」

「まさかの食いついた!?」

「い、いや! 違う! こ、これは……」

「ほうほう~? やっぱり、彼女がいるって嘘なんでしょ~?」

「いや、それは本当なんだけど……」


(しかし、待て! ここは潜入調査としてお試し体験というのもアリなのでは……? いやいや、決して『Eカップ』につられたわけでは――)


「ほぉ~ら、ほら! ジャンプするとこんなに揺れるんだぞぉ~?」 バルゥ~ン♪ バルゥ~ン♪ ← 弾むEカップ

「ぐ……ッ! てか、そんなフェンスに寄りかかりながらジャンプなんてしたら危ないですよ……」

「なら、君がこっちに来たら止めてあげようかな? それまで私はここでジャンプしつづける!」

「いや、どんな脅迫だよ……」


 十分後


「…………」 じぃー 

「はぁ、はぁ……」

「もう、ジャンプはできないようだな……」


(相手が疲れるまで揺れ続けるEカップを眺めるだけの簡単なお仕事でした。

 ごちそうさまです!)


「さぁ、満足したでしょう? 帰りますよ」

「ねぇ……君、本当に天文部……入らない?」

「だから、何度言われたって――」

「幽霊部員でもいいから! だ、だって……君と一緒にいるの楽しかったし……それに、入ってくれたら! わ、私の『おっぱい』見放題だよ……?」

「なん……だと……」

「たまにこうして屋上に来てくれるだけでもいいから!

 ねぇ、こっちに来て……?」


(……どうする。安藤? ここは一つ人助けとして『名前』だけ貸すならいいのではないか? 別に、部活に名前を貸すだけなら……)


「た、たまになら――」



『安藤……くぅぅううううううんんんんん!!』 スカァゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!! ← 安藤くんの脳裏によぎる怒れるグレムリンの図



「すみません! やっぱり無理です! 殺されてしまいます!」

「……ウフ、そっか! アハ、君の彼女さんってよっぽど怖い人なんだね♪」

「いや、怖いというか、薄いというか……」


「じゃあね……バイバイ……」



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「センパイ! センパイ! もう、起きてくださいよ! センパイてば!」

「――ぬごっ!? って、姉ヶ崎? え、ここは……か、階段?」


(俺は何で屋上の入り口前の階段で寝ているんだ……?)


「もう! 心配したんですからね! センパイてばすぐに戻ってくるって言ったのに……三十分以上たっても戻ってこないんですもん! それなのに、様子を見に来たら屋上のドアの前で寝ているしぃ……」

「……は? 何それ? てか、お前。朝倉さんは?」

「えっと……まだ、起きないんで下の階に置いて来ちゃいましたキャピ!

「朝倉さん、まだ起きないのか……」


(てか、俺は何で寝ているんだ?)


「せ、センパイ? もう、帰りましょうよぉ~キャピ!


 ガチャ……ガチャガチャ!


「嘘だろ……屋上の鍵が閉まっている」


(千津先輩は? あれは夢だったのか……?)


「先輩……何で屋上の鍵を二つも持っているんですか?」

「ハハ……な、何でだろうな?」



『むぅ! しぶといなぁ……せっかく、にできるかと思ったのに……』


『なんだとぉー! じゃあ、君にの素晴らしさをおしえてあげましょう! ほら、こっちのフェンスに! ここから眺める夜景とか絶景なんだから!』


『……なんだ。一人じゃないのかぁ~』


でもいいから! だ、だって……君と一緒にいるの楽しかったし……』


『ねぇ、こっちに来てコッチニキテ……?』



(おいおいおい、嘘だと言ってよジョ●ンニィー……)


「ちょっと、センパイ! 何で屋上のドアなんて開けるんですか!?」


 ギ、ギギギ、ギィ~…… ← 錆びたドアの開閉音


「…………なぁ、姉ヶ崎」

「うわっ! 寒ぅ……センパイ、何ですかぁ~?」

「この屋上ってさ……一ヵ所だけフェンス壊れてたっけ……?」

「え? うわっ!? なんであそこだけフェンスが無いんですか!? あぶっなぁ~……あ! だから、屋上が立ち入り禁止なんですかねぇ~キャピ!


(あのフェンスが無い部分って……千津先輩が寄りかかっていた場所だよな……)


「千津……レミ……一体、誰なんだよ……」




 後日、確認したところ……

 学校の屋上が使えなくなったのは、十年以上前に先輩が卒業して一人になった天文部の部員が夜の学校に忍び込み。屋上で天体観測をしていたところ、老朽化していたフェンスに寄りかかって屋上から転落死したのが原因だというのが判明した。


 それ以来、ウチの学校に天文部なんてものは存在していない。

 そして『千津レミ』なんて生徒も存在していなかった……。






【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとうね。委員長よ♪

 ついに、何故かの2巻発売まであと5日よ。皆、予約は当然したわよね?


 さーて、次回の『何故かの』は?」


次回「妹のやりくり上手」 よろしくお願いします!


「じゃあ、いつもの『ペタリンじゃんけん』を――と言いたいところだけど、残念ながら今日は『じゃんけん』無しよ。

 クフフ……その代わりに皆に『お題』を用意したからチャレンジしてみてくれるかしら?



【お題】

『千津レミ』と早口で10回言ってみてください




千津レミ、千津レミ、千津レミ、千津レミ~~


 チヅレミ、チヅレミ、チヅレミチヅレミ…………



    ちづれみちづれみちづれ――――



      み・ち・づ・れ







「クフフ……わたしを差し置いて新キャラが『フルネーム』を貰えるわけないじゃない?

 皆のコメント、評価、待ってるわね♪」

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