第1話 俺がこっちへ来た経過

 高校時代、彼女は同じクラスだけではなく学校中でもそこそこ有名人だった。

 成績超優秀な変人として。


 業者テスト等では常に学内トップ、偏差値72程度を常にマークし、中間テストや期末テストでも常に一桁順位に付けていた。


 その癖授業中の態度はかなり酷い。

 古文の時間に先生に

「松戸、せめて授業中1回は起きろ。」

と言われたりする位だ。


 基本的に本を読んでいるか熟睡しているか。

 なのでなかなかコミュニケーションが取れない。

 しかも朝は授業開始1分前にやってくるし、掃除当番でなければ授業終了後すぐ教室から消えてしまう。


 何故そんな人物と俺が接点があるかというと、実はは大した理由ではない。

 1年の時の最初の席が松戸が窓際一番後ろで、俺がその前だっただけだ。


 基本的に彼女は授業に対して『参加する事に意義がある』という感じで、出席こそするが基本熟睡している。

 なのでプリントやら何やら、全て俺が保管する羽目になる。

 ホームルーム等での配り物もそうだ。


 そうしているうちに、いつの間にか俺が松戸担当という事になった。

 松戸に連絡事項があると、皆、松戸ではなく俺に言ってくる。

 クラスも3年間同じだった事もあって、俺もその立場に慣れたというのもある。


 ただ松戸の名誉の為に言っておくが、彼女は決して悪い奴ではない。

 俺から見る限り付き合いにくいタイプではない。

 必要性を認めれば会話もしてくれるし、納得できる意見にはちゃんと従ってくれる。

 見てくれだってちゃんと整えればそれなりに美人だ。


 ただ高校時代は、

 ○ 人と目を合わせるのが苦手でわざと髪に視線が隠れるような髪型にしてい

  た。

 ○ 頭の回転が速すぎて、彼女としては繋がっている話も他人が聞いたら脈絡

  ない話に聞こえる。

 ○ 人に合わせるのが苦手

等々で俺以外に意思疎通しようとする人間があまりいなかった。

 まあ今では大分人間的に成長して、融通もきくようになっているのだけれど。


 高校卒業後、彼女は日本最難関の某国立大学へ、俺は一流半くらいの大学へ進学た。

 それきり音信不通になっていた。

 何せ彼女は同窓会にも来やしないし。


 付き合いが復活したのは大学卒業後、就職して2年位の夏。

 熱くてけだるい土曜の昼間、携帯にメールが入ったのだ。


「頼みがある。本日20時15分、○○市役所○○出張所前に来れるか。」


 ちなみに○○市とは今俺が住んでいる場所だ。

 俺は何だろうと思いつつも、久しぶりだしつい気になってしまったた。


 なので身支度を整えスーツ以外では一番ましな服で指定場所に出向いてみた。

 まあましな服と言っても、穴の空いていないジーパンとブランドのポロシャツだけれども。


 俺の安マンションから歩いて7分。

 出張所の建物の前、何故か一段と暗く感じる場所で彼女は待っていた。

 ご丁寧に黒のポロシャツと黒のスカートという黒ずくめの姿で。


 高校時代以来だけどすぐわかる。

 髪を短くして夜なのにサングラスをかけていたけれど、雰囲気がまるで変わらない。


「悪い、待たせたかな。」

「いや、5分前だ。悪かったな、急に呼び出して。」

 以前に較べて少し会話が普通な感じになっていた。


「どうした、何かおかしいか。」

「いやさ、前なら悪かったとか言わないだろうな、と思って。」

「柏がいない中6年やって来たんだ。少しは人間丸くもなるさ。実際柏がいれば助かったのにと思った事が何度もあった。人間って本当に面倒だ。」


 中身は余り変わっていないようだ。


「それで何の用だ。」

「まずは歩きながら話そう。」


 彼女は歩き始める。

「そっちはこの時間、行き止まりだろ。」

 営業時間外で公園に続く扉は既に閉まっている筈だ。


「いいんだ、そのうちわかる。」

 でも彼女は自信たっぷりで歩いて行く。

 俺としては後を追うしかない。


「実はさ、出来れば投資をして欲しくてさ。」

 いきなり危険ワードが出た。


「ネズミ講とか連鎖販売とかじゃないよな。」

「安心してくれ。基本的にこの世界には一切関係ない。そうだな、さしあたっては僕の当面の生活、うまくいけば僕の老後と、もしよければ君の老後にだ。」


「何なんだ。」

 話がさっぱり伝わらない。


「具体的に言う前に、まずは論より証拠というのを見せてやろう。そろそろ周りを見てみたらどうだい。」


 そう言われて俺は立ち止まり、当たりを見回す。

 確かに先程と同じくらいの暗さだし足の感触も大差ないが、あたりの風景は大きく変わっていた。

 いつの間にか俺達がいるのは林の中の石畳の道の上。


「何なら植物をよく見てみればいい。柏ならわかるだろう。」

 言われて石畳の横に生えている草を引き抜いてみる。

 中まで芯が詰まった見たことのない草だ。


「ここは一体。」

「ちゃんと今日は帰してやるから安心しな。取り敢えずこの先に今の僕の家がある。そこで詳しく話そう。」


 俺はただ、ついて行くしか選択肢は無かった。

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