第十三話俺に頼れ

「なんだって? なぜそんなことをしなきゃならない? この俺が!」


「おまえものんびりした性格だな。おまえは姉のところへ行くべきだ。妹としてな」


 もう言わないぞ、と相手は一歩も譲らない構え。


「チャンプ、俺のどこが駄目なんだ」


「あ? なにがだ」


 さっぱりわけがわからない、というように青年は首をかしげた。


「なんでここで働けないんだ」


 リオンの頭はボケボケだ。絶句してチャンプはついに頭をかかえる。


「このままじゃ危ないってさっき言ったのに。ああ、おふくろ、こいつになんとか言ってくれよ」


 女将はそんな馬鹿な、と鼻息を荒くした。


「なんとかって……うまく説明してやったのかい? 領主様の話とか」


 ひとさし指を眉間にあてて、頭痛に耐えているチャンプ。


 かわって女将が口火をきった。


「じゃ、アリーシャちゃんのおじさんの話をするかね」


「言ってやってくれ。おふくろ」


 青年が投げやりなのは今に始まったことではなかった。彼はいつもこんな調子だ。


「いいかい、アリーシャちゃんはね、リオンのことを知っているらしいよ。なんて記憶力なんだろうね」


 早口で言って、「妹って言ったのはまずかったかね」とつぶやいた。


「とにかく精神的に参ってるから、感じよくないけど悪い娘じゃないから……しっかりね」


 肝心の領主の話にたどり着くまでに、ろうそくがゆうに四分の一ほど溶けてしまった。


 わけのわからない励ましは前哨戦らしい。


 苦労するように、彼女は言葉をつむぐ。


「正確にいうとアリーシャちゃんはさ、あたらしいお母さんができたのを知ってたんだよ」


 らちがあかないので、話を要約する。


「彼女の母親は彼女が赤子のときみまかった」


「父親は母を亡くして、見るに忍びないアリーシャを母親の親戚筋に預け、王に勧められた縁談を断り、召使を妻にした」


「アリーシャは新しい継母がみごもり、自分には妹ができるはずだと自慢していた」


「その継母が消えてしまったので会えないが、アリーシャは妹が生きていて、いつか会えると信じている」らしい。


 その父親というのがアリーシャとリオンの父親、ティユーなのだという。

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