第捌話:ヤエコトシロ

私とユカリちゃんは話しに挙がっていた神社へ向かうために山へと入っていった。

 山道はほとんど舗装されておらず、獣道と言っても差し支えないほどの道だった。更に、町中と比べると明かりに該当するものがほとんどなく、私達は家から取ってきた懐中電灯の明かりを頼りに、進んでいった。

「ユカリちゃん、暗いね……いつもこんななの?」

「そうだね。夜の山ってのはこんなものだよ」

 二人で山道を歩いていくと、目の前に一つの洞窟が見えた。あれがユカリちゃんが言ってた所だろうか?

 私達は洞窟の中へ入ると、奥へ奥へと進んでいった。洞窟内には所々に燭台が置かれており、そこには火の点いた蝋燭が立ててあった。どうにも火ノ神神社での出来事を思い出してしまい、少し身構えてしまう。

 どれ位進んだ時であろうか定かではないが、洞窟の奥から何やら聞こえてきた。何か歌のようだが、洞窟内で反響し、酷く不気味に感じる。

「ん、いるみたいだね」

 そう言うとユカリちゃんはそのままぐんぐん進んでいった。不安ではあるが、私もユカリちゃんを信じ、後を追った。


 私が辿り着いたのは開けた空間だった。恐らく、意図的に作られたものなのだろう。その証拠に、壁は木枠によって補強されているし、机やベッド等も確認出来た。

「サエ。こっちだよ」

 ユカリちゃんに呼ばれ、行ってみると、そこには車椅子に座った一人の少女と背の高い男の人が立っていた。

 車椅子に座った少女は見た感じ、私よりも年上に見えた。長い髪の毛を後ろで二つに分けて結んでいる。片方はゴムで適当に留めただけで、もう片方は三つ編みになっていた。

 男の人の方は身長180cmは超えているように見えた。髪はオールバックにしており、目付きは非常に鋭く、まるでテレビで見る悪役の俳優さんの様であった。

「……何しに来た」

「ん、そんな怖い顔しないでよ。ちょっと聞きたいことがあって来たんだ」

「何か勘違いしている様だが、この子は便利屋じゃ――」

「縁ちゃん!こんちゃーーっス!!」

 洞窟に声が響き渡る。突然の大声だったので、少しびっくりしてしまう。

「よっ、花子。元気そうだね?」

「モチのロンっス!何てったってアタシは、元気印の犬見花子イヌミハナコっスから!!」

「頼むからもう少し小さい声で喋ってくれ……」

 あの人が何か知っているんだろうか?そう思いユカリちゃんの後ろから覗き込んだ私は「ハナコ」と呼ばれた少女の姿を見てギョッとした。

 彼女の両手と両足は、まるで骨が入っていないかの様に力なく垂れ下がっていたのだ。力を抜いているとかでは決してない。もしそうなら、あんなに垂れ下がった手足が伸びるはずがない。

「花子、早速で悪いんだけど、手を貸してもらっていい?」

「いいっスよ!こっちの手は貸せないっスけど!」

 そういうとハナコさんは自分の腕をプランプランと揺らした。痛くはないのだろうか?

「あのね、私達の家族に由紀って子がいるんだけど、今どこにいるか分かんないかな?」

「ユキさんッスね?…………んーむむむ……ユキさんユキさん……」

 質問をされたハナコさんは何やら目を瞑り、うんうんと唸り始めた。すると、突然目を開き、こう言った。

「分かったっス!ユキさんは……研究所にいるっス!」

「研究所?そんな建物あったっけ?」

「小学校近くにマンホールがあるっスよね?あそこから下水道に入って、学校方面にずっと行ったら入り口があるっス!」

「小学校?」

 ユカリちゃんは何やら困っている様子だった。まるで、学校の場所を知らないみたいに。私と同い年なら自分の通ってる学校を知らない筈はないんだけどなぁ……。

「……これを持ってけ」

 そういうとあの巨体の男の人は私達に町の地図を渡してくれた。

「ん、ありがと。防人」

「それと研究所に行くなら、これも持っていけ」

 ついでに渡されたのは、何かの企画書の様だった。昔、お父さんがよくこれと睨めっこしてたのを思い出す。

「これは?」

「……あの子に関係するものだ。もし似た様なのを見つけたら、持ってきてくれ」

「ん……分かったよ。サエ、行こうか」

「う、うん」

 私達は別れの挨拶を済ませると、出口へと歩いていった。途中、洞窟の奥からハナコさんの声が聞こえてきた。

「また来て欲しいっスーーー!!首も手も足も長----くして待ってるっスからーーーーーーッ!!!」

 首だけでいいよ。と心の中で小さく突っ込みつつ、私達は洞窟を後にした。

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