第陸話:臆病者の罪

魂を消す?私が……?オバケを…?もしかしたら、人も…?

「別にそんなに怖がることはないよ。君意外にもそういう能力を持ってる奴はいるしさ。現にハラエもそうだしさ」

 そうだ。そういえば、ハラエさんも何かやってた。確か、水を操ってた。

「この町に住んでる人間は全員じゃないけど、そういう変わった能力を持ってる人間もいるよ」

「ユカリ…さんは…?」

「ん?私?私もそうだよ」

 とても信じられなかった。こんな超能力みたいなこと…全部漫画とかアニメの世界の話だと思ってた。それなのに、私自身がそういう存在って……。

「まあ、さ。そんなに気にしない方がいいよ。慣れれば安全だし」

「そ、そうだよ……慣れれば、安心…!」

 ユカリさんはともかく、ハラエさんはさっき凄く辛そうにしてたように見えたんだけど…。

 でも…信じよう。ユカリさんを、ハラエさんを、私を。


 私達は一旦ハラエさんと別れ、捜索を続けることになった。ハラエさんは何やら呼び出されたらしく、急いで走っていった。ハラエさんが持ってた丸っぽい機械何だろう?新しい携帯かな?

「よし、次はちょっと町外れにある廃屋に行こうか?」

「廃屋…?」

 正直言って嫌な予感しかしない。これで何も起きなかったら奇跡だ。ホラー映画だったら駄作だ。行きたくない思いを堪えつつ、ユカリさんについて歩くことにした。


 廃屋への道を歩いているとユカリさんが突然喋りだした。

「ハラエねぇ、昔、人殺したことあるんだって」

 ユカリさんの突然の言葉に一瞬、思考が停止した。何…?誰が何したって…。

「ハラエはさぁ、暗殺者として育てられてたらしいんだよね。それで、小さい頃から人、殺してたらしいよ。でも、ある日、ターゲットから反撃されてさ、捕まったらしいんだよね」

 一体何で…何でユカリさんはそんなことを今……。

「…何日も何日も、拷問されたらしい。その時の傷は今も残ってたよ。私にだけ見せてくれたんだけどね。…まあ多分、君には見せたがらないだろうなぁ」

 ハラエさんが、暗殺者?拷問……?信じられない。だってあんな…優しそうな人が…。

「その時にあの子は大量の水がトラウマになった。あの子は今でも湯船に浸かることが出来ない」

「その時だったらしいよ。あの子が能力を得たのは」

 嫌な予感がした。どうか外れて欲しいと願い、私はユカリさんに聞いた。

「その能力って……」

「…神社で使ったやつ。自分自身のトラウマや他人のトラウマを再現し、操る能力」

 当たってしまった。嫌な予感が。じゃあ、あの時ハラエさんは…。

「サエ。私が今、急にこういう話をしたのはあの子のことを知ってもらいたかったからだよ。きっとあの子は、嫌われるのが嫌で自分じゃ言わないだろうから。私から言わせてもらった。」

「サエ、君がどう思ったかは関係ない。ただ、あの子は今は暗殺者ではなく、君の事を守りたいと思ってる人間だということは覚えておいて欲しい」

 こういう時、どう返事をすればいいのだろう。ハラエさんが優しい人なのは何となく分かってた。でも、私はあの人に…あの人の心を救ってあげるほどのことが出来るだろうか?それとも、それはいらないお節介だろうか?

 あれこれ思案していると、ユカリさんが言った。

「これ、サエにって」

 そう言われて手渡されたのは、一枚のハンカチだった。誰の物かは簡単に検討がついた。裏に刺繍されたメッセージは私を勇気づけてくれた。……この世界に来る前の私にこのメッセージを見せたら、どう反応しただろうか………。


 公園からおよそ10分程歩いた場所にその廃屋があった。かつては綺麗な家だったのだろうが、今ではボロボロで、窓もいくつか割れている有様だ。本当にこんな所に由紀さんはいるんだろうか?

「ん、もう開いてるみたいだね」

 そういうとユカリさんはドアノブを握り、扉を開いた。木の軋む様な音と共に私達は中に入っていった。

 中は意外にも外ほどは汚くなく、綺麗に残っているものが多かった。ただ、見たこともないような部品や機械がそこかしこに散らばっていた。


 一階を探索していると突然肩を叩かれた。心臓が飛び出しそうな程驚き、後ろを振り返るとそこには、エプロンを着け、髪をポニーテールにしている14,5歳程の少女がいた。

「何かお困りですか?お困りのようでしたら、私が御手伝い致しますが…」

「ん?あぁ、サエ、心配しなくていいよ。その子も同じ家で暮らしてる子だよ。でもおかしいな。いつも単独行動はしないように言ってるのに……」

「縁さん。何かお困りですか?」

「…悪いけどヨシコ、ちょっとの間静かにしててくれる?」

「はい」

 この子もユカリさん達と一緒に暮らしているようだった。ヨシコって呼ばれてたっけ…。

「ヨシコさん。私は三瀬川 賽です。あなたのお名前は何ですか…?」

「…………」

 驚くほど私に反応を示さない。そもそも、目線が合っていない。どんなに目を合わせようとしても、彼女の目は真っ直ぐ前を見据えたまんまで、どこを見ているのか検討もつかない。

「……ヨシコ、もう喋っていいよ。質問するけど、ナオコはどこ行った?

「直子さんは…………お知り合いを探しに行かれました。帰ってくるまでここで待っているようにと仰せつかったので、ここでお待ちしているので御座います」

「ん……そう。じゃあ私から君に命令するよ。『私達について来て』」

「畏まりました」

 …変わった人だ。「命令」されないと動けないってことなのだろうか?


 私達は三人で廃屋の中を探索することにした。様々な機械などが散らばっている中で特に気になったのが二階の書斎だった。この部屋だけ他の部屋と比べて異常な程に散らかっており、まるで部屋の中で竜巻でも発生したかのような光景だった。

「ん……ここだけ妙に散らかってるね。ここを調べてみよう」

「ではまずは御掃除で御座いますね!私にお任せください!」

 そういうとヨシコさんはいの一番に部屋へと入っていった。彼女がちょうど部屋の真ん中に移動した辺りで突然、彼女の体が宙を舞った。彼女はきりもみ回転しながら本棚へと叩きつけられた。

「…なるほどね。ここは何かヤバイね」

「そ、それより早く助けないと……!」

 ヨシコさんの頭からは血が流れ落ちていた。

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