黄昏に沈む
鯉々
第壱話:逢魔が刻
よくあることだった。
ご飯を食べたり、布団で眠ったりするのと同じでいつものことだった。
私の目に見えているのはとぼとぼと動く弱々しい足。周りの皆の足取りよりも遅くて、どんどん追い抜かされていく。
「あれー?
私の耳に聞こえてきたのはクラスメイトの・・・確か、「三木さん」の声だった。彼女の周りにはいつものメンバーがいる。あの子達の名前は覚えていない。覚えたくも無かった。
「ちょっとこっち来いよ」
私は学校のトイレに連れて行かれた。
どれ位の時間が経ったかは覚えていない。私はずぶ濡れになっていた。彼女たちの姿はもうどこにもなかった。もう帰ったのかも。
「もう…やだ…。…大丈夫。夏だしすぐ乾くよ」
自然と口に出していた。どうせ誰も元気付けてはくれないんだから自分で言っても罰は当たらないはずだ。私はトイレに散らばった教科書や筆記用具をかき集めると適当にランドセルに突っ込み、急いで帰路についた。外はまだ明るかったけど、既に太陽が沈み始めていた。私はこの時間が一番のお気に入りだ。普段賑やかな町が静かになるのが何だかおかしくてちょっぴりだけどテンションが揚がっちゃう。
「…今日も行こうかな」
私は通学路の途中にある公園に立ち寄った。普段は人がいっぱいいるのに今はいない。今だけはこの公園を独り占めだ。まずは砂場でお城を作って遊ぶことにした。学校でこんな事をやってたらすぐに壊されちゃうだろうけど今だけは違う。誰にも壊されない無敵のお城だ。次はブランコだ。いつもは男の子たちがずっと使ってて気が弱い私には遊ぶことが出来ない遊具だ。
「ふ、ふふふ…はは」
自然と笑みが零れた。何だか楽しくてポカポカした気持ちになる。ちょっぴり鼻歌も歌ってみたりして…。
満足いくまでブランコを漕いだ私はベンチに座っていた。今度はどれで遊ぼうか公園を見渡していた。でも、それも長くは続かなかった。眠くなってしまっていた。
「ちょっとだけ休もうかな…」私の意識は少しずつなくなっていった。
「…-い。ねぇってば」
「え…?」
私は聞き覚えのない声で目を覚ました。目の前には黒い髪を後ろで結んだ女の子が立っていた。その髪の毛は暗闇の中でもはっきりと分かるほど綺麗だった。
「あ、起きた?大丈夫?」
「え…あ、はい。大丈夫…です」
「そう…?ならいいけど。もう暗いからさ、そろそろ家に帰ったほうがいいよ?この辺ってちょっとヤバイし」
「ヤバイって・・・何がどうヤバイんですか…?オバケとか…?」
「うん、そうだね。オバケとか。…ていうか君、この町に住んでて知らないの?皆知ってるはずだけど」
知らなかった。もう私の頭の中には家に帰りたいという考えが浮かんでいた。…でも、本音を言うと家には帰りたくなかった。これ以上は包帯で自然に隠すのは難しいかもしれないし…。
「あの…えっと…もし良ければなんですけど…家に止めてもらえたりはしますか…?」
「…私の家に?そうだね……うん。まあ、いいよ」
私はホッと胸を撫で下ろした。勇気を出して言ってみて良かった。
「じゃあ、行こうか。私の名前は
「あ、私は…
「名前で呼んで良いよ?こっちこそよろしくね、サエ」
お互いに自己紹介を済ませながら、私たちは公園を出た。その直後、近くの電柱から誰かに見られているような感じがした。何故かは分からないけれど、体が強張った。
「もういるみたいだね。いつもの位置だ」
そう言うとユカリさんはゆっくりと歩き始めた。置いていかれるのが怖くて、私も急いで歩き始めた。何となく、見られている感覚が近くなっているように感じた。
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