第10話「進展」

 3人があらき荘へと戻ると、SEがお昼どきということもあり、昼食を準備して待っていた。


「さて、ワタクシの方の調べ物も終わりました。これからはチームとして動く必要がありそうです。よろしいですか?」


 全員に語りかけるように立ち上がりそれぞれを見回した。


 モグモグ。


 鳴と響はすでに用意されていた朝食を食べながら、コクコクと頷いていた。


「ありがとうございます。さて、それでは響は宗也さんの妹、麗子さんのボディガードとして、ここで待機を。今回は呪音が相手なので油断せずに」


 こくっ。


 響は食べるのを止め神妙に頷いた。


「え! あたくし、お留守番ですか……、あっ、でも響さんとですか。そうですね。それなら構いません。決着を付けて着て下さい!」


 鳴と宗也は何の決着かすごく不安に思ったが、SEはそのまま、「もちろんです」と頷き続きを口にした。


「そして、宗也さんと鳴は、ワタクシと一緒に宗也さんのお屋敷に行きましょう。十中八九犯人は屋敷にいるはずです」


「よっしゃ! 暴れられるぜ!」


 一度伸びをした鳴は、「犯人との対決ならキチンと着替えてくるぜ」と言って、楽しそうにドアを開けて出て行った。


「……あ、まだ、何をやってもらうか言ってないのですが、行っちゃいましたね。全く、気が早くて困ったものです」


 SEは苦笑いを浮かべ、次に宗也の方へ向き、


「宗也さんには、屋敷の中で怪しい人、利益を得る人をピックアップしてもらいます。それからお屋敷の人にもお話を伺いたいので、その手引きをお願いします」


 バン!


 SEが喋り終わると勢いよく扉が開き、鳴がジーパンに皮ジャンを素肌に羽織った先程とかわらない格好で登場した。

 しかし、見る人が見れば、鳴の服が、先程と違いどれも有名ブランドの高級品だということが見てとれた。


「さぁ、行こうか」


 鳴は、皮ジャンに差しておいたサングラスをかけながら、さながらアクション俳優のようにニヒルな顔で言ったが、


「あの、鳴。格好良く言ってもらった後で悪いけど、まだ、鳴に対して何をしてもらうのか説明していないので、説明してからになるな。行くのは」


 かぁぁぁぁ!


 鳴は手で顔を覆ったがチラリと見える肌は赤くなっていた。そして肩を落としてトボトボと部屋の端の方へ座って大人しく話を聞く姿勢をとった。


 コホン。


 SEはニコニコしながら一つ咳払いをし、鳴にしてもらうことを説明しだした。


「鳴には宗也さんのお話にあったのですが、事件の数日前、麗子さんが奇妙な音を聞いたとの事だそうです。そこで鳴のエコーズを使って大まかな方向を特定。また、その他にそのような痕跡が無いかも調べてほしい」


「……あぁ、わかった」


 と鳴が小声で呟き、力なく立ち上がった。


「では、今度こそ行きましょう!」


 SEの号令で三人はあらき荘を後に宗也の屋敷へと向かった。


 このとき、あらき荘をあとにした3人をうつろな目で見つめる一人の男がいたが、誰もその男に気が付く者はいなかった。


*


(う~ん、全く駄目だ。全然わからない)


 SEが運転する車内、SEと鳴が何やら雑談でもしているとき、宗也は後部座席で怪しい者や利益を生じるものを考えていた。


(麗子にまで危害をあたえる者が思いつかない。……いや、でもSEが言ったようにどこで恨みを買うかわからない。でも、でも、犯人は僕たちの屋敷にいる使用人たちってことになるんだろ。確かに両親と妹、全員と接点があるのはもうそれしかいないはず……、でも、そんな……彼らのうちの誰かが犯人だなんて……)


 宗也は頭をかかえ、必死にその想像を追い出そうとしたが、そうしようとすればするほど、その考えは消えなかった。


*


 目的地、宗也たちが住む屋敷に辿りつくと、鳴が口を開いた。


「そういえばSE、なんでお前たちまでここに来たんだ? 他にも怪しい場所はあっただろ?」


「えぇ、でも、ここが最も怪しい場所なので」


 SEは宗也を気遣ってか悲しげな笑みをこぼした。


「…………」


 宗也もある程度車内で覚悟しており、今さらSEの言葉に驚くということはなかった。


「う~ん? なんでSEはここが怪しいって思ったんだ?」


 鳴が不思議そうに聞くと、


「ああ、鳴は情報がないのでわからないね。実は昨日、宗也さんの叔父さんのお宅へ行ったんだが、そこで遭遇したのはエコーズをかけられワタクシたちを襲うようにした人形だった。それと同じブランドの人形が麗子さんの部屋に飾られていてね。正確に言えば、ブランドというより、人形師が同じ人形が、だけどね」


 ッ!!


 これには宗也は驚きを隠せず、思わずSEの方を見た。


「流石SEだな。よくそんなことまで調べたな」


 鳴は素直に尊敬したように言った。


「その人形師は母さんが贔屓にしていて、麗子の人形は全部母さんからのプレゼントなんだ。母さんの趣味を知っている人間なんて。……わかった。SE、すぐにみんなに出てきてもらうよう伝える」


 宗也はそう呟くと、我が家を見上げた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 見慣れた屋敷が怪しく揺らめいているように感じたが、宗也はその眼に怒りを灯し、黙って屋敷へと帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る