書きたい言葉を書きたいだけ書き、むしってみる

 リノリウムの床を靴底が跳ねる音。

 平成最後の八月の空は青く入道雲は健やかで、そして殺人的なあつさだった。窓のガラスを突き抜ける革新派のシュプレヒコールと蝉時雨から耳を守るためにわたしはポルノグラフティのナンバーを小さな硬いイヤフォンに流していた。

 宇宙人だと打ち明けてくれた男……少年と青年の間くらいの……は運命の恋人を探すために情報蒐集に余念が無く、今日も屋上で電波を傍受しているらしい。わたしはその屋上に行く途中で保志那央と出会う。それはアカシックレコードに基づくわたしの未来だと宇宙人は予言していた。もちろん冗談なのだが。しかし運命の相手は決まっているのだと宇宙人は主張した。

 この実験棟にはその名前の男も女も見たことがないがとわたしが鼻で笑ったとき、彼はそれこそ馬鹿にした顔でだからこれから出会うんだよ、と言った。

 わたしは奇跡とか運命をテクノロジーでぶち壊すのが好きだと言えば彼はそれでは科学者失格だと笑った。

 ぼくの星では科学者は大概浪漫主義者だ。運命や奇跡をこそ科学で実証して見せたいのさと。


 平成最後の八月。

 果たして宇宙人の予言は的中することになる。

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