第56話 忘れ形見

思えば、あなたとの間に子供はいなかった。

若いうち、二人だけでよかった。

幸せだった。

でも、あんなに早く、あなたがいなくなって、

僕は、ひとりになった。

あなたを思い出させてくれるのは、何もない。

全てを捨てて、家を出た僕には何も残されていない。

あの家はまだあるのだろうか。

きっと違う誰かが住んでいるのだろう。

再び尋ねても、あなたはいない。

思い出させてくれるものすらない。

せめて、あなたとの間に忘れ形見がいてくれたら、

僕に何を語りかけてくれるのだろう。

僕は何を語りかけるのだろう。

もう遠い過去のこと

思うほどに時間の遠さを知らされる。

走りすぎる子供たちの声に、

また、あなたを想う。

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