第12話 痛み

思い出すことがある。

今はいないあなたを。

自由の風に吹かれて、過去の全てを捨てたつもりになっていた。

雨宿りした軒下で、ふと、あなたの顔が浮かんで来た。

驚くほど鮮明に。

思い出には、感情がつきまとう。

胸が痛くなる。

そして、消えない。

大声をあげて、消えてしまえと言っても、胸の痛みは消えない。

手を伸ばせば、届きそうなくらいに、あなたを身近に感じる。

どうして、こんなことが起こるのだろう。

わたしは何も望んでいない。

忘れる努力をして来たし、全てを捨てた。

なのに、あなたはわたしの心の隙間に実に巧妙に入り込んで来た。

もういないあなたが、どうやってわたしの居場所を知ったのか。

風に吹かれるように彷徨うわたしに、どのようにして追いついたのか。

わたしにはわからない。

ただ、あなたはわたしの胸の内にいて、優しく囁いてくる。

いろいろな思い出と一緒に。

それが、痛い。

叫びたくなるほど、苦しい。

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