第83話 妹はおとなしいです

歩き回って疲れたため今は休憩中。

砂利の上に座っているのだが……


さてここで問題です。

今ここには僕を含めて何人居るでしょう?


「何をブツブツ言ってるんだ?アヤト?」


「こっちの話ー。」


一人語りは理系あるあるだと思います。

まあ、それは置いといて

お父さんに質問してみよう。

聞くと、父はこっちを見たまま答えた。


「何を言っているんだ、そんなの三に――」


「オ~ス~カ~さ~ん~。」


母が恐ろしい声を出す。

まあ、無理も無い。

だって、予想通り父はテンションが上がっていて忘れていたのだから。

僕の妹、母の腕の中にいるフーシアの存在を。


……いや、正直僕も忘れかけていた。

だって、全然泣かないし、まだ一歳ぐらいなのにもう気配が薄いんだもの。


「フーシアっておとなしいよね。」


「そうね、ドクト先生とかミレナさんとかからも言われたわ。

でも、他の人にそう聞いてもあまり実感がないのよ。

だってアヤトのときもそうだったから。」


そりゃ、僕の精神年齢が精神年齢だからね……

そんなことは口には出せないが。


「そうだったんだ。」


「そうだな、だからあまり手が掛からなかったんだよな。」


「だからって、フーシアのことを忘れるなんてどうかと思いますよ、オスカーさん。」


「うっ、すまん。」


母が父を追及する間、僕はフーシアに話しかけている。


「ほら、フーシア、お兄ちゃんのアヤトですよー。」


「……あーとー。」


フーシアが名前をっ。


「おお、フーシアがしゃべったぞっ。」


「そうですねっ、オスカーさん。」


フーシアの成長に

二人とも顔をほころばせている。

かくいう僕の顔も緩んでいるだろう。


「「でも……」」


ん、どうしたんだ?


「「最初に呼ばれたのは、俺(私)じゃ無かった……」」


肩を落とす父と母。

なんかごめんなさい。

特にお母さん、良いところだけ取ってったみたいで。


その後、二人はフーシアにいろいろ話しかけたりして

ちゃんと名前を呼んでもらえていた。




「さて、もう帰り始めないと家に着く前に日が沈むな。」


「そうですね、そろそろ行きましょうか。」


そんなに多くの荷物は無いが、一応忘れ物などが無いか確認するなど、

帰り支度をしていると……


川面から大きな影が跳びだした。

そして着水し、ザバンという大きな音とともに大きな波が起こる。

水しぶきが呆気にとられる僕の顔を濡らす。

その影はしばらく水面から顔を出していたがやがて沈んでいった。

一体なんだったんだ。


「まじか……アヤト、あいつを見られるなんて運がいいな。」


「何だったの?あれ。」


「リヴォエールっていう動物だ。

川に生息しているって言われているが、

実際に見たことのある人は少ない。

警戒心が強いのか生息数が少ないのかは分からないがな。

滅多に見られないから、見かければしばらく幸運が訪れ続けるとまで言われてるぞ。

それにしても、この川にいたんだな……」


「へぇー。何か良いことあるといいね。」


「そうだな。」


最後に、自然からのサプライズを受け取り、

僕たちは帰路につくのであった。

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