第72話 地下からは脱出です4

ランプの光が届くギリギリのところ、

部屋の隅に棚のような物が見えた。


「ディーさん。」


「なんだ?坊主。」


「あそこにあるのはなんでしょうか?」


「あれか……」


そう言うと調べに行くディーさん。

そして……


「うおっ。なんだよこれ。」


「どうしたんですか?」


「これを見ろ。」


戻って来たディーさんは手に古い本を持っていた。

表紙はぼろぼろだがかろうじて

王国、記録という文字が見えた。


「これは?」


「オスカーの言葉を信じればここが王城だという事と

表紙の文字から考えると、多分この国が王国だったときの王室やら出来事やらの記録だろうな。」


「歴史書ですか。」


「そうだ。まさかこんな物が見つかるとは。

誘拐事件の解決のために来たはずなのにな。」


「ほんとにそうですね。

それで、その本って貴重なんですか?」


「そりゃなぁ――」


とディーさんは前置きして説明する。




この国、ヴァリア公国は昔、ヴァリア王国という名の王国だった。

それは、初等学校で教わることであるので、

ほとんどの国民が知っている。


しかし、その王国から公国に変わる間に数十年の空白が存在するという説が

学者の間で有力であることは世間ではあまり知られていない。

その空白においてヴァリア王国は一旦滅んだのではないかと考えられている。

飢饉か災害か、はたまた戦争だったのか。

いずれにしろ、王国に何かがあったのは確実である。


そのせいかは分からないが、この国が王国だった頃の記録はほとんど見つかっていないのだ。

わずかに見つかった個人の日記などで空白がある事を把握するのが精一杯だったようだ。

だから、今回見つかった本はとてつもなく重要なものだろうということだ。




「そうなんですか。じゃあ、気をつけて持っていないとですね。」


「そうだな。」


本が貴重だと理解した僕は、ディーさんと話しながら気付く。


王国関係のものが貴重ってことは家の書庫にあった

王城の設計図なんて、とんでもないものだったんじゃ……

だからみんなあんなに驚いていたのか。


ディーさんが本を丁寧に包んで袋に入れたところで、


たいちょー、きこえますかー。


そんな声が響いてきた。

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