13:ブッダ、アクセラレーションブーストする

人、人、人、まことに人が多い。


ここはバングラデシュ。かつて東パキスタンと呼ばれた、インドのイスラム担当パートが分離独立した地域である。ここにシリコンブッダがいると聞いて私はやってきた。はたして、それは約束の場所で見つかった。


「これがシリコンブッダですか、普通ですね」


顔がキャンキャンした笑顔の骨董店員はハイテンションな日本語で答えた


「そうでしょ、いいでしょ、安いので買いましょう、社長ー」


「私は社長ではない、あと私が言った評価は「普通」だ」


「まあまあごめんごめん、でもこれの凄いところはまだあなたに見せてない、ボタン押すとブロロロロロロ(回転する身振り)するの、やりたいでしょ、ねぇ、今やらない?」


「え?」


「ではやります、イスタアダトタ?」


骨董店員は容赦なくボタンを押した


ラズパイを積んだ安っぽいプラスチック製のシリコン-ブッダ像は趣味の悪い青色LEDの後光を上げ、まさに現生生物全ての咆哮をあげるかのように大音量のアザーンを流し始めた。


「これ、ジャパンではブラクラって言う」


「眩しっ、いいから今すぐこれを止めろ!!」


「アザーン、綺麗でしょ、ムスリムの人のだけどブッディストが使ってもいいと思うの、ほら、綺麗」


青色LEDは点滅を始め、やがて排気ファンの音が大きくなったと思ったら、そのシリコン-ブッダ像は揺れ始めた。まさか、飛ぶのか


「レッツフライ!」


はたして、それは空を飛んだ。


店中の骨董品が、特に布を使ったものは強烈な下降風でめちゃめちゃになった。そして骨董店員は手に何も持っていない。自律飛行オートパイロットなのか。


「排気ファンで空を飛ぶの、一石二鳥でしょ」


ブッダドローンはその場で2回回転したあと、ヒンディー語では無い何か(おそらくサンスクリット語だろう)で何か(おそらく「天上天下唯我独尊タストゥリエアルドゥファーチ」)と喋ってそのまま空に消えた。



◆◆◆



後日譚


その骨董店員は名前がムハンマドであるとフェイスブックにより判明した。来週日本に来るらしい。私が天上天下唯我独尊だと思っていたそれは実はアラビア語で、翻訳すると「加速を加速する」、つまり「アクセラレーション・ブースト」であることが分かった(どうりで短すぎると思った)。彼の言うところには、「世界人口は80億を突破した、仏教の時間経過は人間の魂の生誕ペースに拠るので、釈迦が再臨する日は経典の予言よりも早く訪れる、早ければ世界人口が100億になる10年後」、だそうだ。ちなみに彼は仏教徒ではなくムスリムで、フランス語と流暢なフスハーを話した。どうしてフランス語も話せるんだと問うと「仏の国だからね」と返された、何教徒だよ。ちなみに飛行機の便が1313だったので縁起が悪いと言って変えたそうだ。

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