第170話 敗北の炎陽、導かれるは二つ目の炎
長い様で短い夢を見ていた。
まるで最初に
けど――
この敗北は、何かが根本的に違う気がしてならなかった。
戦いに負けたと言う認識じゃない……本来抗う事が出来ない物を相手にし、勝利を得る事さえ不可能と思える――そんな感覚だったのを覚えてる。
「――こ、こは? ああ……そっか。俺はあのマサカーに敗北して――」
「あら、お目覚め?」
夢から覚めた俺は視界に真っ白な部屋を映し、かかる声に安堵を覚えた。
自身が最近言いようの無い心地よさを覚えるそれは、紛れもない
「その、俺は大丈夫っす。けど、マサカーの浸蝕は
横からした声に反応し、勢いに任せて上体を起こした俺。
声だけしか確認していなかったため、彼女がどこにいるのかが範疇の外だった。
そんな勢いのついた俺の視界――それはもう予想だにしない位置で、彼女が覗き込んでいたんだ。
「……っ!? 綾、奈――さんっ!? すんませんっす!」
「いえ、別に誤る事はないんだけどね?」
勢いのまま声の方へと向けた顔が、なんでかそこにあった
一瞬言葉を失った俺達は、慌てて視線をあらぬ方へと放り投げた。
そして何故か、激しく高鳴る鼓動が収まらない俺。
珍しく頬を紅潮させた
そのまま気まずい沈黙が襲うかに見えたその時――
「てめぇ、コラ……このバカ
「のわっ!? あ、ああ……アシュリーさん!? ナンデコンナトコロニ??」
「何でもないわよ、お姉様のお見舞いよ。良い事!? これはお姉様のお見舞い! アーユーOKっ!?」
ビシィ!と指を突き付け、がなるアシュリーさんは視線がどこか泳いでいた。
自身としても何故か不運な事に、
いつもそのあり得ない偶然に、不意を突かれるのが当たり前となって来ていた。
そう言えばあの
と——よくよく考えれば、そこに
取り敢えず現状……猛犬の如く警戒するアシュリーさんをかわす様に、視線を流す事とする。
全く本当に、どうなってんだろう。
そうして視線を逸らした俺への
どうやら俺は、本当におまけの様だった。
「お姉様、お気分に問題はありませんか? 私もお姉様まであの黒い奴の浸蝕を受けたと聞いて、気が気じゃなかった——」
すると労りの言葉が終わる前に被せられたのは、
指し示すのが、あの地球宗家に属したサキミヤと言う女性絡みなのは明白だった。
「アシュリー……先の戦いでは、あのユウハを足止めしてくれてたわね。彼女の復讐の念を、私の代わりに受け止めてくれていた。それは私にとって、とても嬉しい出来事——」
「あの子を救えなかった私を守ってくれたのは、私が救ったあなただった。ありがとう……本当に感謝してる。」
そして——
いつもの
ありったけの労り込めた手が、アシュリーさんを包み込んだんだ。
「ふにゃっ!? おおおお、お姉様っ!? そ……そんな、突然——」
突然の抱擁に気が動転したアシュリーさんが、両手を振り回して正気を飛ばす。
今まで
事態が飲み込めずにアワアワ慌てふためくアシュリーさん。
その二人を双眸に捉えた俺は——
何故だか分からないけれど……胸の奥がズキリと痛んだんだ。
》》》》
病室での一件は、私も久々に焦りを覚えた物だ。
何がって……あの子ったら、私が覗き込んだタイミングで起き上がるんだもの。
ちょっと大人気なく紅潮してしまったじゃない。
まあ最近当たり前となって来たアシュリーの、空気を読んだのか壊してるのか分からない珍入でその場を凌いだけれど——
どうも今度は、違うトラブルが燻り始めたのには嘆息しかなかった。
私がアシュリーへ労りを向けた時……きっと本人は全く気付いてないだろうけれど確実に、斎君の視線が拗ねた様に揺らいでいた。
暫くジーナちゃんの事で
「アヤナー? どうしたのだ~~? お顔が真っ赤にコーチョーしてるのだ。」
「ああ、ごめんさいね?ピチカちゃん。あと……真っ赤と紅潮は——」
「はうっ!? またやってしまったのだ! またお意味が、ジューフクなのだーー!?」
そんな思考に
すで私達の体調良好を知るや、早々とその経緯をエンセランゼ大尉へと報告しての今。
いつもの様にじゃれ合いながら?病室を後にした
彼女の愛らしい髪を撫で上げながら、視界に映る妖艶な影に病室椅子へ座したまま苦笑を送ると——
「過酷な任務なのは分かるわ。けどね——フレームパイロットが入れ替わり立ち代り病院艦のお世話になるのは、流石に私もどうかと思う訳よ。あとね——」
「ここがいつもラブの発信源になるのは、独身人生まっしぐらの私としては中々に堪えるわ。」
「あ~~(汗)、その説はどうも……弁明の余地がありませんね。申し訳ない。」
まさにぐうの音も出ない二点への、ピンポイントの苦情を突き付けられてしまった。
フレームパイロットの点は言うに及ばず——
アシュリーを皮切りにジーナちゃんからの、私と
さらに付け加えられたラブの……の下りは、言わずと知れたクオンとジーナちゃんの淡い関係。
さらにはどこかで確実に目撃していたのだろう、私に
「む……事はあらかた、大尉へとお伝えした所。自重願いたいと思う、大尉殿。」
どこかじゃなく、ここだった……(汗)。
リヒテン曹長が、ラブの点への苦情を呈しながらも僅かに頬を赤らめた姿は、一端の女性たる証。
当然この会話に疑問符が踊るピチカちゃんには、まだ早い問題である。
確かにラブの発信源がつねに病院艦であるのも問題な所……私は到達してしまう。
それはフレームパイロットが、の下り。
突き付けられた現状を、自分で認識してしまったのだ。
「所で大尉。私は意識を飛ばしていたせいで詳細を聞いてはいないのですが……ジーナちゃんの活躍であの無人機の大部隊を?」
「ええ、そうね……アレを獅子奮迅 水を得た魚とでも言うのかしら。与えられた支援兵装 〈
「あの数の無人機を、ごく短時間で全て行動不能に。けれど敵方の有人艦船では、武装とスラスターのみ撃ち抜き航行不能へ。指令からも無用な被害を最小に止めた戦果は、救急救命を生業とする部隊に相応しいとして高く評価されていたわ。」
大尉とて強く意識してのものではないだろう——けどその言葉は確実に……私の胸へと突き刺さる。
私は……守られていた。
先の戦いに於いて、ジーナちゃんでさえも最前線で比類なき活躍を見せていた時——
きっと差別なき社会であっても、女性が守られる事を忌避する必要はない。
それは明らかに、研鑽を続けた格闘家としての己の誇りがそう思考させたんだ。
命を守るために
それでも、割り切れない想いが双眸を歪め……そこへ勘付いたであろうエンセランゼ大尉が「まあ、頑張りなさい。」とささやかなエールを送ってくれた。
そのやり取りに疑問を持った、リヒテン曹長とピチカちゃんへ作り笑いを送ると——
後ろではない……前へ向かうために思考する事にする。
クオンやジーナちゃんが前へ向く今、後ろなんて見ていられないのだから。
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