第22話
明けて翌日。
朕達は以前オリバー氏の依頼で歩いたトシュケルの南に広がる森の道を歩んでいた。
オリバー氏の依頼の時は日帰りの予定であり、探していた材料もすぐに手に入る予定であったから、実際に入ったのは森のごくごく浅い領域であったが、今は既に先日踏み入った領域を超えていた。
既に時刻は午後。日の高さから察するに、夕の五刻に差し掛かろうかという所。今の時点で来た道を戻っても夕暮れ迄にトシュケルに戻るのは無理である。
元々秘密基地の建設予定地を探すつもりで来ているので、元から日帰りのつもりはなかった。あまり森の浅い場所に秘密基地を作っても良くない。せめて歩いて半日は掛かる場所位でないとすぐに誰かに見つかってしまうだろう。
ライラの装備も野宿を想定したものとなっている。といっても、前回オリバー氏の依頼で来た時の装備に、ライラが書字師の仕事の時に使っている麻の下敷きに、今回新しく新調した熊の毛皮を使った袋型の寝袋だけだ。
この寝袋はライラには少し大きいが、後々秘密基地の建設時にも使うであろうし、出来てからは普通に下敷きとして使えば良いから奮発した。熊の毛皮は狼達が寄ってこなくなるので、山の中で使うには最高の素材だ。
価格は少し高くて8テールであった。メリッサ嬢に店の倉庫を覗かせてもらった際に熊の毛皮を見つけたので、セメントと一緒に購入し、ライラと朕で昨晩縫って袋状にした。といっても、折り畳んで両端を革紐で縫っただけである。
かなり高い買い物であったが、資金はまだまだあるので、必要資材はどんどん買い揃えて行きたい。金は使ってこそ意味のある物だし、下手をすると今持っているテールは今後価値が暴落する危険性もある。今の内に現物に交換しておく方が良い。もし秘密基地が完成しても現金が余っていたら、全て小麦や食料にして秘密基地に貯蔵しておくつもりである。
貯蔵庫も作らねばならんな。少なくとも1年は人里に降りずに生活できるようにしなければ。
朕達は先日9番サンドを作った河原を川に沿って進み、河原に出てから既に二刻は歩いていた。
途中で先日スモークしたキジ肉と今朝買った
「ライラ、大丈夫かえ?」
朕がライラの様子を見れば、ライラは両手を膝に尽きながら肩で息をしていた。
「もう少し行けば少し開けた場所がある。そこまでの辛抱だ。今日はそこで野宿しよう」
既にライラは持ってきた荷物を1つも持っていない。まぁ、慣れていない山道を幼子が荷物を持って歩くなど到底無理な話だ。既に全ての荷物は朕が
朕はというと、流石猫。起伏の激しい山道でも全く疲れない。
息を切らしたライラを連れて、
「少し休んでおれ。その間に朕が晩飯の用意をしよう」
小枝を集めて円錐状に組み上げ、『燃焼』で火を起こす。練習がてらライラにやらせようかと思ったが、まだ伸びていたので朕が手早く着火した。
家から持ってきたライラがいつも使っている方の大鍋に川の水を汲んで一煮立ちさせてから、道中で採ってきたキノコや香草と一緒にキジ肉のスモークを煮て簡単なスープを作って晩飯とした。
スープを食べ終えるとライラは少し元気を取り戻したようだったが、まだかなり疲れている様子だったので早めに寝ることにした。
周囲に簡単な獣避けの
寝袋に入ったライラの枕元で星の見方を教えながらその日は寝た。
少し心配だったので朕は
本来は
それは、日の出はもうすぐ、と言う彼者誰時であった。
――
ぬ。何だこの機械的な
そのチャントは、明らかに朕に向けられたものだった。ライラに向けられたものが何かの拍子にコチラと混信しているわけではなさそうである。
であるならば、呼びかける対象が何故に黒猫の朕なのか。ライラに呼び掛けたがまだ寝ているから、半分起きている朕に呼びかけているのか、判らぬ。
それ以前に、この者がどこから呼びかけているのかもわからぬ。
朕は眼だけで周囲を見回すと同時、オドを展開して
だが、野生動物や虫のたぐいは引っ掛かれど、チャントを行える様な高識閾体の存在は確認できない。
此奴、相当遠くから朕達を探知しておるな。
――
そのチャントは再び朕に呼びかける。
どうやら
が、
これは技術力の差、碩学技術の進捗状況による。少なくとも朕の治世ではそうであったし、メリッサ嬢への支払手続き中に提示を求められることはなかった――単に紙幣で支払いをしただけなのだが――から、現時点でも地上世界では普及していない筈だった。天上大陸では買い物に
ということは、この
こんな森の中で何をやっているのかは不明であるが、あまり迂闊な答えはしないほうが良いかもしれない。
――
「……」
狸寝入りである。朕は猫であるから猫寝入りか。
――
煩いの。というか此奴、使い魔とは言え猫に
――嘘寝してもダメなのです。サーフィススキャンでアナタが起きているのは解っているのです!ネコが
ぐぬぬ。なんじゃ此奴。意外と鋭いではないか。なんか
――無視しないで欲しいのです!
ヤーだヨー。糞シテ寝ロ。
――
う○こ娘が、煩いのぅ。
――……なんで本艦が女の子だと思うのですか。女の子にう○ことか言うの酷いと思わないのですか!?
……其方、『
――その理論おかしいのです。本艦が麗しい女性というのは頷けるとして、『う○こ』と言う冠詞が付くのは納得できないのです!
誰も麗しい、などとは言っておらん。
と言うか、此奴、『妖精持ち』の自立艦であるか。
妖精持ち、とは朕の治世での言い回しであるが、
しかし、糞の役にも立たぬやり取りとは言え、ここまで高度な会話が出来るという事は、かなり大規模なマインドスフィアを搭載しておる。おそらく、此奴戦闘艦であるな。
くわばらくわばら。やはり関わらないに限……いや待てよ?
戦闘艦であれば保全、
のう、其方。
――早く
この小娘……まぁ、仕方がない。ほれ。
と、朕は自身の
――…………嘘をつくのは許されないのです。しかも、このコードは大昔の
いや、
プツリ、と朕の
瞬く間に展開していた
朕はその瞬間、飛び起きた。
「う○こ娘のくせに朕にマインドクラックを仕掛けるとは生意気な!容赦せぬぞ!」
それは、彼の者が朕の
見る間に
尋常ではない出力である。やはり戦闘艦か。
再展開した朕の
「にゃははは。出力はなかなかであるが、
う○こ娘がチャントを使って仕掛けているマインドクラックの経路を遡り、
それは延々と続く数字の平原。
逆に、
有り体に言えば、加害者を特定して
う○こ娘の
だが、こういう場合、
まぁ、
さて、素数、素数、と。
あ、このう○こ娘、生意気にも二千桁も
「……ナヴィ、どうしたの?」
朕の声にライラが起きてしまったが、仕方ない。ちと待っておれ。
RSA-2048程度、瞬く間に突破してみせよう。そーれ、
かーらーのー、
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