優しい嘘貯金

中田 乾

第1話 「恭」

 めんどくさい。動きたくない。

恭は気だるそうに部屋でゴロゴロしていた。

 もうすぐ夏休みが終わるというのに友達と遊びにも出かけない。彼女なんてもちろんいない。

といってする事もなく(宿題は終わらしている)

恭はただ部屋でうだうだと意味もなく1日を

費やしている。

 なんかつまんねぇなぁ‥

窓からの日光は汗ばむ自分の体をさらに温める。

なぜか分からないが最近何をしても楽しくない。

友達と遊んでいても会話の内容が幼稚で

誰が誰のこと好きだとか、興味のないゲームの話など恭にとって退屈でしかない。

 熱い。もうすぐ夏休みが終わる。

しかしまだ八月だ。暑さは衰える気配がない。

もう少し夏休みの期間を伸ばすべきじゃないか、

そんな事を考えたが退屈な時間が増えるだけなので

すぐにその考えを否定した。

家にあるゲームは飽きたし、家のマンガも全て読み終えている。そして昔から小説はいちいち読むのがまどろっこしいので読まない。

 なぜこんなに楽しくなくなったんだろう。

恭は疑問に思った。少なくとも一年前の

自分なら友達の好きな女の話はある程度

興味を持てていたし、ゲームも友達の中では

一二を争うほど通だった。

 しかし今の自分は友達の恋愛事情や

画面の中のRPGの物語などどうでもいい。

そんな自分の変化に気付いたのか最近、友達も

自分を遊びに誘わなくなった。

その事に少しさびしさを覚えたが、すぐに忘れた。

 恭は八畳の自分の部屋のベッドの上で

意味もなく枕を蹴る、枕の柔らかい感触が

足に伝わり枕は何で出来ているのか

気になったが調べるほどの事ではないので

枕を両足で挟み、そのまま元ある位置に放り投げた。枕が綺麗に元の場所に戻ったのが

嬉しく一度周りを見た後大きなガッツポーズをした。

 そういえばガッツポーズなんかいつぶりだろう。

思い返してみても心の底からガッツポーズした事を思い出せない。

老けたなぁ。と呟いたが中学生ごときが

何を言ってるんだ。と言われた気がして周りを見た。もちろん誰もいない。

さっき確認したじゃないか。

という誰かの声が聞こえてきたような気がした。

 恭は少し顔を赤くした後、近くにある

スーパーに駄菓子を買いに行くことにした。

このままずっと家にいると夜ぐらいに

今日という1日を無駄にした気分になりそうな

気がしたからである。

外ではセミが自分の存在を訴えるように鳴いている。

恭は簡単な服装に着替え家を出た。

(夏休み早く終わらないかなぁ‥)

そう思いながら恭は

まだ明るい夏の夕暮れを背に歩き始めた。

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