第74話 納涼!肝試し
皆で浴衣に着替えると、歩いてすぐのところにある神社に向かう。
みんなでゾロゾロと歩いていくと、境内に屋台がずらりと並んでいた。
「わあ、屋台がたくさんあるね」
「あ、あそこ、金魚すくいがある!」
「チョコバナナ食べたいでござる!」
はしゃぐ演劇同好会の面々。分かる。お祭りってテンション上がるよな。
「はい、武田くん」
俺がぼうっとしていると、横からにゅっとチョコバナナを差し出される。
「あ、ありがとう、桃園さん」
「いえいえ。美味しいですよ」
見ると、女子たちはみんなチョコバナナを食べてる。
チョコバナナを美味しそうに頬張る桃園さん……うむ、何かエロい。
「あんっ……黒くて大きくて太いものが拙者の口の中を蹂躙していくでござる~っ!」
山田が何かキモイことを言ってるけど気にしない事にしよう。
他にも焼きそばやらお好み焼きやら屋台のグルメを堪能していると、先を歩いていたアリスちゃんが戻ってきた。
「皆様、あちらに肝試しコーナーがありましたわよ!」
「へーっ、行ってみようか」
「面白そうですね」
小鳥遊も桃園さんも興味津々だ。
……あれ? ひょっとしてこれって、新たなフラグを築けるチャンスなのでは?
みんなで肝試し会場の入口やってくる。
てっきりお化け屋敷的なものを想像していたのだが、どうやら竹やぶの中を抜け墓場の横を通って戻ってくるというだけのイベントのようだ。
うーん、何か、思ったより怖くなさそうだな。
「皆さん集まりましたか? これがペアを決めるくじ引きですわ!」
アリスちゃんが嬉しそうに竹筒を出してくる。なんて用意がいいんだ。
どうやらこの肝試しは、最初から計画されていた事らしい。
くじ引きか。ここで誰とペアになるか……ラブコメ的には重要だよな。
「てやっ」
丈の棒を引くと、先に赤い印がついてる。どうやら同じ色の棒を引いた人同士がペアらしい。
俺はキョロキョロと辺りを見回した。
俺と同じ赤の人は誰だ?
「――タツヤ」
クイクイ、と袖を引っ張られる。
「あ、ユウちゃん」
ユウちゃんが赤い棒を俺に見せてくる。
どうやら俺とペアの相手はユウちゃんらしい。
「タツヤ……いっしょ。うれしい」
はにかむユウちゃん。
「うん、俺もうれしいよ」
相手が山田とか、山田とかじゃなくて良かった。
俺はそう言いつつも、桃園さんの姿を目で追った。桃園さんが引いたのは青。どうやら小鳥遊とペアみたいだ。
「わあ、小鳥遊くん、一緒ですね」
「桃園さん、頑張ろうね」
親しげに会話をする二人。
桃園さんと小鳥遊、この一年でだいぶ距離が縮まったように見える。前までは、桃園さんは男子と言えば俺とばかり話していたのに。
客観的に見ても、美男美女でお似合いのカップルって感じだ。
いいなあ。俺も小鳥遊みたいに格好良くて性格も良くて、マンガの主人公みたいな奴だったらな。そうしたら、俺も――。
「二人……仲良し?」
ポツリとユウちゃんがつぶやく。
「えっ!? ……ああ、そうだね! 最近、あの二人、仲良いよね」
俺が慌てていると、ユウちゃんは少し不満そうな顔をしてうつむいた。
「タツヤは……桃園さんとペアが良かった??」
「いやいや、そんな事ないよ。ユウちゃんと一緒で嬉しいよ!」
俺がフォローすると、ユウちゃんはしっかりと俺の腕にしがみついた。
「がんばろう、ね?」
「うん、そうだね」
「ダーリンと一緒のペアで超嬉しいんですけど!」
――と、大きな声がして振り返る。
見ると渡辺さんが山田に抱きついていた。
「ぎえ~! ぐ、ぐるしい!!」
どうやら残りは山田と渡辺さん、アリスちゃんとミカンというペアらしい。ミカンは小鳥遊とペアを組めなくて少しむくれ顔だ。
「それでは、一番初めは赤のペアからどうぞですわ!」
赤のペア。俺たちか。
「じゃ、行こうか」
「うん」
ユウちゃんと二人で暗い夜道を歩く。
ぼうっと赤い提灯の他は灯りもなく、薄暗い道は不気味だ。
「タツヤ」
と、ユウちゃんの声がして振り返る。
「ごめん、ちょっと待って」
「……ああ、ごめんごめん!」
そっか。俺、歩くの早かったかな。ユウちゃんは身長も小さいし歩幅も小さいからなおさら早く感じたのかも。
「……手」
と、ユウちゃんが急に右手を差し出してきた。
「えっ?」
「その……手……つないでいい……かな」
消え入りそうな声で言うユウちゃん。
「あ、ああ! うん、もちろんいいよ」
そっか。ユウちゃん、暗いところが怖いんだな。
拷問の本なんかを読んでたからてっきり怖いのは平気なのかと思ってた。
俺がユウちゃんの手を取り握りしめると、ユウちゃんは照れたように顔を赤くした。
「……う、うれしい……」
可愛いなあ、ユウちゃん。
と、そこへ何か白いものが飛んできた。
ピタリ。
「ひゃ、ひゃあっ!」
白いものがユウちゃんの頬に張り付く。
ユウちゃんは驚いて俺の体に抱きついた。
「つ、つめたい……」
「な、何だこりゃ!?」
恐る恐るユウちゃんの頬にひっついたものを見ると、ただのコンニャクだった。
なんつー古典的な!
「ユウちゃん、大丈夫だよ。ただのコンニャクだよ」
「……そう。びっくりした」
俺もビックリしたよ!
「……あ」
俺の腕の中にいたユウちゃんがビクリと身体を震わせた。
「……ん?」
「ご、ごめん、急に抱きついて……」
顔を真っ赤にし、目をうるませるユウちゃん。
「あ、ああ。別に大丈夫だよ、これぐらい」
「ん……」
コクリとうなずき俺から離れるユウちゃん。
何だかさっきからユウちゃんの様子がおかしい。
――と、ユウちゃんは何かを思い詰めたような顔で立ち止まり、顔を上げた。
「……ユウちゃん?」
「あ……あの、タツヤ。私――」
「ぎゃああああ!! オバケぇええええええ!!」
ユウちゃんが何か言いかけたその時、ミカンがすごい形相で走ってきた。
「み、ミカン……!?」
「うわーん! 武田ぁ!!」
ガバリと俺に抱きつくミカン。ぷるんとおっぱいが俺の胸に当たった。
「み、ミカン、どしたんだ!?」
「お、おば、おば、オバケ……オバケが!」
俺の胸に顔をうずめてガタガタ震えるミカン。マジかよ、こいつ、こんなに怖いの苦手だったのか?
「ミカン先輩ーっ、待ってください、一人にしないでくださーい!」
続いてアリスちゃんが走ってくる。
アリスちゃんは俺たちの姿を見てホッと表情をゆるめた。
「ああ、良かった、先輩たちと合流してたんですね」
「うん。もし良かったら、一緒に行く?」
俺が言うと、アリスちゃんはぱあっと顔を輝かせた。
「良いんですか!?」
「うん、いいよね? ユウちゃん」
「ん」
コクコクとうなずくユウちゃん。
そんなわけで、右手にユウちゃん、左手にアリスちゃん、背中にはミカンがしがみついたまま、俺たちは四人で肝試しのコースを進むことになってしまった。
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