第70話 乱反射(2)

ん~~~。

苦しい…。


暗い、暗い海にどんどん呑み込まれていって。


死ぬほど苦しくなって

もう、ダメだぁって

思ったとき。


誰?

おとうさん??


力強く引き寄せてくれる。


ようやく

海から顔を出して

その人を見た。

高宮がにっこりと微笑んでいた。


…高宮さん?


と思ったとたん

いきなり唇を寄せられた。


えっ!!

なにっ!?




「うぉぉぉ~~~っ!」


およそ

22の女子とは思えぬ雄たけびでガバっと起き上がってしまった。


・・夢。


汗をびっしょりかいて、胸はドキドキしてるし。

ぎゅっとパジャマの胸元を押さえた。


キス・・?


思わず唇に手をやる。


なっ…


なに勝手に夢なんか見てるわけっ!?

あたしってば!!


頭をかきむしる。



そして、

海でおぼれかけたとき、苦しくて思わず高宮にぎゅうっと抱きついてしまったことを瞬時に思い出した。


あんなこと

しちゃったし!


いくら溺れかけたとはいえ。


いまさら

自分のしたことがこっぱずかしくてどうしようもなくなった。


ぜ・・

全然、そんなんじゃないんだから。


ほんと。



「なんか全然、進んでなくてつまんないね。」

南は志藤に言った。


「はあ?」


「加瀬と高宮。 この前も一緒にサーフィン行ったみたいだけど。 やっぱなんもなかったみたい、」


「おまえは心配してたんちゃうんかい。 何をガッカリしてんねん、」

志藤はおかしくなってしまった。


「高宮ってエラいよね。 ほんと。 志藤ちゃんだったら二人でサーフィンなんて言ったら、もう泊まるトコまで予約してそうやもん、」


「おれを引き合いに出すな。」

そこにあった書類で彼女の頭をペシっと叩いた。


二人の関係は

子供っぽいまま

楽しいだけの時間で過ぎていた。



「本部長、コレはんこ下さい、」

夏希は秘書課の志藤のところまで行き、文書を差し出す。


「ああ、はいはい。」

デスクから判を取り出しながら、


「あ。高宮、休んでるで。」

ボソっと言った。


「は・・?」

後ろの彼の席を振り返る。


確かに

気配なく、デスクはきれいなままだった。


「なんか具合悪いって電話あったみたいやで。」


「本当ですか?」


「いちおう、報告…」

と、判をポンと押した。


気になって昼休みに電話をしてみたが、呼んでいるのに出ない。


どうしちゃったんだろ。


ちょっと心配になってきた。


夕方、外出から戻る時にもう一度電話をしてみたら、



「もしもし・・」

死にそうな声で高宮が出た。


「あ、高宮さん?? 加瀬です。 どーしちゃったんですかぁ?死にそうな声で・・」


「ほんとに・・死にそうだよ。」


「え?」


「急性大腸炎になっちゃって…昼間、医者に行って点滴受けてきたんだよ・・」


「大腸炎って・・おなかが痛いんですか? 何かヘンなもん食べたとか?」


「わかんないよ…」


「何も食べられないんですか?」


「おかゆくらいなら、って言われたけど…」


「じゃあ、あたしが作ってあげます!」

夏希は張り切った。


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