第49話
『――ゴギャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ…………』
道中、何故か耳の奥に風切音以外の残響が聞こえていたり、妙に息が荒れていたりしていて――いや、それ以上に頭の中がグチャグチャだ。
「――ハァ、ハァ。ハァ…………なんで、もっと早くに気付けなかったんだろうな……」
呟く僕の視線の先にあったのは、他でもない、自分自身の真っ黒な鱗に包まれた両手だった。
いや、鱗だけじゃない。
象牙色とでも言うべき鈍い白色の鉤爪も、見下ろす視界に必ず入り込む凶悪に突き出た顎やそこに並ぶ鋭利な牙も、背面に生える巨大な翼や長大な尻尾も、左右の蟀谷の辺りから前方へと射貫くように伸びる角も……そして、自らの姿を顧みようとしてこなかった僕がさっき初めて目にした金色の瞳も、その全てが人間には備わるワケの無い代物だ。
そう、今の――自在に超常を操る異形へと
「……そんなつもりなんて無かった。オレはただ必死に生き抜こうとしただけだ……だけどッ、その所為で全部台無しになったッ!! 全部ッ、オレの責任だッ!!!! オレ自身がッ、選んで進み切った結果だッ!!!!!!」
……最初にこの姿になった時はさ、こう思ったんだよ。
『やった! これでもう殺されずに済む!
そうして、押し寄せる
『この力を使いこなせば、父さんも母さんも兄さんも、何もかもを取り戻せる!!』ってさ。
……でも、違った。そんなのはとんでもない思い違いだった。
だってそうでしょ?
父さんと母さんと兄さんが守りたかったのは『黒宮辰巳』って
例え三人が生き返ったとしても、そんなバケモノに居場所なんてあるワケ無いんだから!!
つまり、父さんと母さんと兄さんが守ったものを決定的に打ち壊しちまったのは、他ならぬ
アッハハハハハ……面白過ぎて嗤いが止まらねえよクソッタレがッ!!!!!!
「…………でも、でもさ……じゃあ、オレはどうすれば良かったんだ……? どうすれば、こうならずに済んだんだ?」
口にした疑問は高所特有の強風に流され、どこからも返事など無いままに溶け消えた。
つい数時間前――勿論それは主観時間であって、実際にどれくらい経ってるかなんて分からないが――まで居た魔界は、敵意や害意、殺意と言った凶悪な意思が蔓延る地獄だった。
そこで生き残るには、
降りかかる膨大な悪意に屈さないようにな。
他に選択の余地なんて無かった。
選べたのは『諦めて死ぬ』だけだった。
だけど、ホントはそうじゃなかったのかな……?
僕が――オレが見付けられなかっただけで、幾らでも手段は残されていたのかな……?
もし、生き残っていたのが父さんや母さんや兄さんだったら、それを見付けられていたのかな?
それで、オレみたいな失敗なんてせずに全部を取り戻せてたのかな?
……分からない、想像もできない。
例え見付けられなかった
……待てよ。
他の道……いや、手段?
魔法で取り戻す?
そう言えば――
瞬間、本当に電流でも奔ったみたいに閃いた。
「……そうか、そうかッ、そうかッ!! そういう事だったんだ!! だからこの日、この時間のキューブだったんだ!!!! この瞬間にならオレはオレの間違いに気付けて、しかもそれを正せる機会にすら巡り合えたんだから!!!!!!」
思わず叫んでいたけれど、その閃いた妙案ってヤツは言うほど大した事じゃない。
ただ単にAプランを思い出しただけだ……いや、正確にはBプランの中の『一番バカンタン』ってヤツか。
どっちも脳筋なのには変わりないから、ゴッチャになっちゃってた。
ホラ、『未来の事故現場予定地を吹き飛ばして、事故が起こる可能性を根本から消し飛ばしてやろう』ってアレだよ。
今まさにその上空に居るんだから丁度良いってね。
――しかも、だ。
今まで考えないようにしていた事だけど、過去を変えるって事は『僕も兄さんも魔界へは落とされない』って事だから、今ココに居る
で、そうなると当然、法則とか因果とかから外れて宙ぶらりんになった
最悪、矛盾の発生が確定した時点で消滅するかもってカンジで。
……いや、本来ならタイムパラドックスが起きても、他のキューブ列に移動するだけになるハズだとは思うよ?
実際、さっき入ったキューブでは別の列に進んだワケだし。
でもさ、僕がココに来た時って、他のキューブ列は全部消えてたワケじゃん?
って事は、他の可能性を収納するハズのキューブが無いって事だから、必然的に今居るキューブ内で改変が起こるって考えられるでしょ。
そうなると、やっぱり過去の改変はあの事故ごと
だから、思い付いた時は――まだ弁えていなかった時は、アタマワルイ脳筋案だからってだけじゃなく気乗りしなかったんだけど、魔界最強の
なんてったって、父さんと母さんと兄さんを踏み躙った最後の
クヒヒッ、クアッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!
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