第35話
とにかく、そんなカンジでヤツの魔法を大分強引に打ち破ったワケだが、これがフツーの異能系バトルだったら、収集した情報やらこれまで積んだ経験と知識やらを駆使して状況を打破すんのがセオリーだろう。
だが、生憎と『相手の弱点を突く』なんてカンジの、まるっきり相手に依存するような戦法は不安定過ぎだし、ある意味眼前の敵を信用してるようにも思えっから感覚的に好かん。
それに、勝負事に於いて相手のペースを崩して自分のペースに持ち込むのはセオリーだろ?
そんなワケで、今後もこんなふうに真正面から直接やり合うような場面に出くわしたら、似たようなカンジで力任せのゴリ押しを叩き付けさせて貰うんで悪しからず。
……『最初の一手で挑発を囮に隙作ろうとしてたヤツのセリフじゃねえだろ』? 『観察と予測がどうのとか宣ってたクセに』? 『
ま、まあ、その辺は
そもそも
「――ギ、グ、ヌゥ……い、いいだろう。生意気にもワシの
――っとっと、解説の所為で置き去りにしていたが、そろそろデブ
って言うか、さっきからなんなんだコイツ? ベラベラベラベラ隙だらけに喋くりやがって。
いや、最初に話し掛けたのはオレの方だがよ……
それでも、身を守ってた幻影を剥がされてデップリした腹と二本角の禿げ頭が丸見えだってのに、なんの危機感も無く無駄に口と喉を動かすだけで、その場に留まってんのはどうかと思うがね。
つっても、コッチとしてはラクだし文句なんて言う筋合いじゃねえがな。
んじゃ早速――と、いざ飛び掛かろうとした所で、なんかオレの周りの木が一斉且つ唐突に炎上した。
その突然起こった品の無い紅葉を前に『……いや、攻撃ならせめてオレを狙えよヘタクソが』なんてセリフが頭を過る。
だが、次の瞬間には周囲の異変に気が付いた。
なんと、ヤツが起こした炎の熱風で空気が複雑に掻き雑ぜられて、二〇メートル先でヤツ自身が発している臭いやら音やらがほぼ完全に掻き消されちまったのだ。
……なるほど、さっきヤツが姿晦ませたのはそういう事か。
この
ヤツは炎の生成に伴う熱風で空気の流れを思うままに操っていたのだ。
それも、空気中に漂う臭い物質の攪拌状況や音としてオレの鼓膜を震わせるハズの空気の振動さえも操るレベルで。
確かにコレなら、さっき見せられたバカみてえな精度の幻影を展開すんのも余裕だろう。
なにせ、『臭いや音を伝える物質の流動』なんてミクロなレベルで気流操作ができんだからな。
陽炎やら蜃気楼やらの詳しい原理なんて知らんが、その辺りを利用して虚像を創り、ソレを揺らさないよう、自然風どころかオレの動きに伴う些細な風まで操作したってトコだろ。
いやいや、スゴイスゴイ。
『炎を出して、その炎が生んだ熱風までコントロールして、最終的に空気そのものまで思うままに~』とか、どんだけ回り諄く魔法使ってんだか。
そんだけ回り道してできた事と言えば手品紛いのかくれんぼとか、完全に方向間違えてんだろ。マジな殺し合いだってのに勝ち抜く気あんのか?
どうせテメエはバケモノに過ぎねえんだから、人間みてえに頭使った搦め手なんぞを開発するより、もっと直接的に『強い炎を出せるようにする~』とか『魔力の肉体強化を極める~』とかのが生存率上がんだろ。馬鹿だね~。
ってか、そろそろ空気が乾燥し過ぎて眼がシュボシュボしてきやがった。
ココは一つ、例の透明瞼でお眼々を保護保護っと……
うん、元々の仕様でなんとなく視界が薄ボンヤリと色眼鏡でも掛けたみてえになったような気がしないでもないが、ま、許容範囲か。
ドライアイは防げてるし、なんだかんだ言っても溶岩の海を泳いだ時よりは大分マシだ。
さて、そんなカンジで、チンケな手品の種明かしを知らず知らず鼻で嗤っちまってたが、敵を視認していたオレの身体がそんなギャグ一つで止まるワケがねえ。
「
身動きどころか漫画みてえに『な、何ィー!?』だの『な――!?』だのなんて漏らす間も与えない内に炎魔法への考察を終えつつ、無駄にデカい図体で見下ろしてきやがる
そんで、掬い上げるようなアッパーカット!!
勿論、グ―じゃなく鉤爪で引き裂くように。
あ?
『さっきの四メートル級巨人(
そんなの決まってる――フィーリングだ!!
……スンマセン許して下さいウソです冗談です。
いやね、ご質問頂いた通り、さっきブッ飛ばしてやった時は、よく覚えてないけど多分グーパンだったんだと思うが、それだと肉片が無駄に飛び散って魔臓器見逃しちまうかもだろ?
だから、今回は鉤爪でザパッと魚みてえな開きにしようと思ってな。
開きにしちまえば、中身が一塊のままドロッと出てきてくれて
しかし、やはり腐っても上級魔物とでも言うべきか、三メートル級
ま、そうは言っても、精々半歩後退したり首を仰け反らせたりできた程度だが。
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