第二話

「アナタはまた今年の冬も綺麗な花咲かせてくれそうね」

小高い丘の上で少し肌寒くなってきた冬の始まりにつぼみをつける珍しい桜の木があった。そんな木に一人の美しい少女が語りかけた。しかし、その美しい顔には年相応のはつらつさ一切無く、服も質素なものだった。

『また来てくれたんだ。ありがとう』

木は少女に向かって話しかけた。

「うん。またアナタの綺麗な桜を見たかったの。だから、今のアナタの様子を見に来たの」

まるで、木の声が聞こえているかのように彼女は返事をした。少女には木の声が聞こえていた。それは人には聞こえない声で、テレパシーのようなものだった。

『ちゃんと、今年も綺麗な桜を咲かせるよ。あと一ヶ月くらいかな」

少女は少しの間、返事をせずに考え込んだ。

「アナタは私の理想」

少女は唐突に木の幹に手を当てて語りかけた。

『僕の花言葉だよね。君の理想って』

冬桜の花言葉は、冷静。少女は冬桜の花言葉のように、いつでも冷静であれる人間になりたいのだ。

「そう、いつ死ぬか分からない。いつ死んでもおかしくない。私は、死が目の前に来てしまったときに、その事実を冷静に受け止められる人間になりたいの」

『そっか。でも……僕はできる限り、君に長生きしてほしいよ。僕の花を綺麗と言ってくれた、楽しみにしていてくれる君にいっぱいの冬桜を見せたいから』

「私だって長生きしたい。でも、私の心臓はいつまで持つか分からない」

少女は吐き出すように言った。少女の心臓は、もう限界を迎え、死は彼女の目の前まで迫っていた。

「もう、帰るね」

『うん、また』

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