第23話 手紙

旅に出たあなた

帰ってきたら逢いにくるよ


あなたはそう言って

旅に出かけた


そう何日でもないからね


でも私は知っているのよ

あなたが一人で旅に出たのではないことを


寒いから風邪を引くなよ

無事に暮らしているんだよ


そうね

私が無事でいないと

一番困るのはあなただもの

だから私はこうして

あなたがいつ帰ってもいいように

部屋の片付けをしたり

あなたが好きなワインを

切らさないようにしてきたわ


毎日過ぎていくのが

ゆっくりで

私は時々

やりきれない気持ちになって

自分の人生から

消えてしまいたくなる


あなたはどうしているのかしら

アフリカの大地で

夕陽を追いかけたいと

地球の裏側の海辺で

星座を見つけるって


今 あなたはどこにいるのかしら


誰とワインを飲んだり

ベッドで過ごしたりしているのかしら


あなたともう一度だけ逢いたいわ

そう出来たら

もうその瞬間に

命が消えてもいい


幾度めかの春

もう少しだけと思って

あなたを待ったわ

桜の咲く日まで

桜が散るまでと


でも私が桜を見ることはないでしょう

私はあなたを待っていたのではなく

私の命が消える日を

待っていたの


私も旅に出るわ

幸せな時もあったわね


この手紙を読んだ時の

あなたの顔を見ることが出来なくて

少し残念

あなたが一度でも

この部屋を訪れたらの話だけどね


あなたを愛した 

あなたを待ち続けた 

あなたと私の命に

アデュー

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