第119話 全ては虚無に

【そちらの声は聞こえんから、ワシが一方的に話すぞ。ワシはお主らが血眼になって探しておる、魔王シルバースターじゃ。魔力を流すと離れた位置からでも声を届けることができる、お主らも粋な発明をしよるわい。で、ワシが何を伝えたいかと言えば、端的に説明しよう。お主ら人間の世界で重要とされる国、『シャッタード都市』は既に陥落した。ワシは今、シャッタード都市の中におり、人間が発明した機械を使って声を届けている。そこにいもしないワシを求めて戦っているであろう人間達にな】


「そんなバカなことがあるか……。こいつは……シルバースターは……最初からシャッタード都市を狙っていたというのか」


 搦め手を得意とすると言われていた魔王。

 だが、さすがにこの行動は常軌を逸してやがる。

 まるで俺達を弄ぶかのように、全ての行動の裏を取られる。


「俺達勇者は、囮の魔人達と遊んでろとでも言いたいのか!」


 ならばここに用は無い!

 今すぐにシャッタード都市へ移動し、貴様を討伐する!


【ヴィルモールが死んだ今、この国にあるものはワシらには作れん物ばかりじゃ。特にヴェイロンの国を半分消滅させた兵器……〝物体転移魔導砲〟には唆られた。人間約1万人の魔力を使って放たれるこの魔法兵器は世界を変えるものじゃ】


 まさか…………こいつの目的は元よりこれか!

 シャッタード都市を狙ったのも全ては魔法兵器を得るため。


 クソッ!


 〝物体転移魔導砲〟は世界のどこかに転移させる、人類史における最大の発明。

 恐るべきはその射程距離。

 サンクリッド大陸であれば、全ての地域が射程距離に含まれている。


 放つのに莫大な魔力を必要とするため、完成から10年間、国民の魔力を日々貯め続けたことで撃つことができるほど。

 だが、奴ら魔族の魔力量であればさらに早く貯めることができるはずだ!


 そして奴は恐らく……!


【そして今、元々貯められていた魔力と合わせ、ワシや他の魔族の魔力を用いて再度〝物体転移魔導砲〟を放つことができるようになった。つまり…………ワシが何を言いたいのか、お主らには分かるか?】


 だろうな!


「フェリス! ナイル! シャイナ! アース!」


 どこにいる!?

 今すぐにこの場を離れなければ、魔王ヴェイロンの国を吹き飛ばした魔法兵器がーーーーーー。


【安心せい人間共、死ぬわけではない。他の地域に飛ばされるだけじゃ。良い旅をするんじゃな】


 遠く離れた空に一筋の光が、天に向かって放たれる。

 それは俺達のいる『開戦区域バルティード』からでも見える光であり、それは大きく放物線を描きながらこちらへと飛んでくる。


「くそっ……。完全にしてやられたな……。魔王を討伐するためには武力だけじゃ足りない。魔王を上回る知恵が必要だ………………。全員! 生きて再び集結を!」


 白い大きな光が俺の体を包み、そこで意識は途切れた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【安心せい人間共、死ぬわけではない。他の地域に飛ばされるだけじゃ。良い旅をするんじゃな】


「シーラ…………シーラ!」


 離れるわけにはいかない!

 離すわけにはいかない!


「ミナト! 何、何があるの!?」

「大丈夫だ心配するな! 絶対に手を離すんじゃない!」


 シーラを引き寄せ、手を固く握る。


 空が一瞬光った。

 一筋の光がこちらへ向かってくる。

 とてつもない大きさだ。


「ゼロは1人でも大丈夫のはず……! シーラだけは俺が……!」

「ミナト!」


 ドンッ!!!!


 真っ白な光に体が包まれる。

 ヘソから捻じ曲げられるように、体の中心へと渦巻くように引っ張られる。


 意識が飛びそうになった。

 それでも手は離さない。

 しっかりと彼女の手を握る。


 刹那、空間がパチンと弾けたように俺は地面に叩きつけられた。

 硬い石のような地面だ。


「ここ……は?」


 俺はハッとした。


 右手に感触がない。

 先程まで確かに握っていた、彼女の温もりはどこにも感じない。

 そして、周りにも姿がない。


「シーラ……?」


 名前を呼ぶも反応は無い。

 洞窟の中のような所で、虚しく声が木霊するだけだった。


 俺は、シーラとはぐれたのだ。

 あれほど大丈夫だと言っておきながら、あれほど心配するなと言っておきながら、シーラをこの世界のどこかで一人にさせてしまっているのだ。


「う…………ああああああああああああああ!!!」


 俺は、この世界に来て初めて、どうしようもなく叫んだ。

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