第115話 魔王の使徒

 彼がどのような経緯で身体の中に爆弾を埋め込まれたのか。

 今となっては知る由もないことだけど、知りたいとも思わない。


 知った所でどうしようもない。


 余計な事を考えるよりも先に、やることがある。


「仇は討ってやる」


 誰かも分からない人肉の欠片に、俺はそう言った。


「ミナト…………無理はしないで」

「無理なんてしてないよ。今までの倫理観を捨てたわけじゃない、ただちょっとネジを外すだけさ」

「でも…………すごい危うい感じがするから」


 心配するように覗き込むシーラの頭を、俺はクシャクシャと撫でた。


 そうさ。

 今までが優しすぎただけさ。

 魔者はなるべく殺したくないなんて、この世界だとそっちの方が異端なんだ。


 正常に戻っただけ。

 そういうことさ。


「ヤシロ……あまり気負うなよ。アレはどうにか出来ることじゃない。至る所で人は死んでる。あいつらもその辺りの覚悟はしてただろう」

「分かってる、分かってるさ。だから俺はもう引きずってない。フォローするんだったらあの2人にしてやってよ」


 ミリとボルザノクの方がよっぽど滅入ってる。

 俺達なんかと一緒にいた時間が違うんだ。

 覚悟はしていたとしても、ベイルを失ったダメージは俺達が想像しているよりも遥かに大きいはずだ。


 生憎と、俺は誰かをフォローできるほど気持ちを切り替えれたわけじゃない。

 だから彼らのフォローはゼロにしてもらおう。


 ゼロもシーラも全然平気そうだし、大したもんだよ。


「無理するなよ」

「もちろん」


 ドォォォォン!


 近くで再び爆発が起きた。

 また自爆による被害者が出たのだ。


「また爆発……!」

「ゼロは2人を頼む。俺とシーラで見に行ってくるから」

「分かった。気を付けろよヤシロ、ベイルが最期に言っていた『奴』ってのは恐らく……爆弾を仕掛けてる犯人のことだ」

「………………! オッケー」


 犯人がいるならむしろ丁度いい……!

 このどうしようもないイガイガした感情は、そいつにぶつければいいんだよな!


「絶対殺す……!」

「……………………」


 シーラと2人で爆発のした所へ移動する。

 爆発に巻き込まれたのか、人が何人か死んでいた。

 だが、その他にも生きている人達はいた。

 真っ青な髪をして、顔に変な模様が入った魔者らしき女と対峙している。


「参った……! やってくれやがったなこの野郎……!」

「さすがに全員を巻き込むことは出来なかったわね」

「スプライト……やつには触れないようにしてください……!」


 討伐者は8人。

 それに対して魔者は1人。


 よく見ると討伐者は、討伐大隊を率いる『バックドラフト』の面々だ。

 確かリーダーの…………スプライト。

 それにウーリーと呼ばれていた女性も。


 A級討伐者も複数いるという『バックドラフト』が1人の女に苦戦している。


 アイツは何者だ?


「お前は……ただの魔者じゃねーな?」

「魔者……その呼び方は好きじゃないわね……。私は魔者という枠組みを超えた存在。魔王シルバースター様に見染められた者、『使徒』のオールムーンよ」


 使徒という言葉に討伐者達がざわめく。


 使徒っていうのは確か魔王の側近で、実力的には上級魔人と同等、もしくはそれ以上って話だったな。


「魔王の側近……! じゃあお前を殺せば、この戦争は人類勝利へと大きく転がるわけだな? そんならー死んでくれや」

「できると思ってるのかしら? 一体いつから私がこの世界を生きていると思っているのかしらね」

「それならババアはさっさと死んでください。見るに耐えません」

「ガキが…………! お前のような小娘が長生き出来ないのは頭が悪いからよ! 行きなさい『爆人弾形ボムドール』!!」


 一体何処にいたのか。

 至る所から見すぼらしい格好をした人や、討伐者らしき人達が、『バックドラフト』目掛けて走り向かっている。


 まさかこの人達は全員……!


「この外道が!! 俺達に人を殺せというのか!」

「あんた達なんて、同族同士で殺し合うのがお似合いよ」


 操られた人達の体が発光する。

『バックドラフト』のメンバーは魔法で向かってくる人達を攻撃していたが、その数に囲まれ、何人かは攻撃することを止め、そして大爆発が起きた。


 確定だ。

 あの女が、ゲイルに爆弾を仕掛け、殺した犯人だ。


「ミナト……」

「アイツだ……! 絶対殺す……!」


 俺は『雷鳥』と『獅子脅し』を両手に把持する。

 爆煙が収まると、スプライトとウーリーだけが無事だった。

 その他の討伐者は自爆に巻き込まれてしまったようだ。


「ぐ……! 近寄ることもできねぇ……! ヴァルもロイドも死んだのか……!」

「残ったのは私達だけですか……」

「無様ね……。あれだけ啖呵を切っておいて、気付けば2人だけ。人間ごときが私達に勝てると思い込んでいること自体、魔王様の策略によるものだと分からないのだもの。笑い者だわ」


 高笑いする使徒。

 その一つ一つが感に触る。


「死ねよ」


 ドンッ!


 使徒に向けて撃った。

 頭に向かって発砲したが、使徒はギリギリで回避した。

『獅子脅し』の弾速をかわすとは流石だ。


「誰!?」

「お前になんか名乗ってやるかよ」


 離れた位置から続けて2発、3発と撃っていく。

 どんな攻撃かは分かっていないようだが、それでもしっかりとかわしてくる。


「また死にたがりが来たわけね」

「殺したがりの間違いだ。お前だな? 人間の体の中に爆弾を入れやがる奴は」

「あら、知ってるの? そうよ。私の魔法、『爆人弾形ボムドール』は、触れた人間の自由を奪い、起爆する効果を取り付けたもの。私のオリジナル魔法」


 髪の色が青色であることからレッカ族というわけではない。

 魔王でもない。

 ゼロの予測は外れたな。


「なぁに? 大事な人でも死んじゃった? ごめんなさいね、人間は弱いから」

「謝る必要なんてないよ。お前もすぐに死ぬんだから」

「言ってくれるじゃない……!」

「こいつは使徒だ! 2人だけでは手に余るぞ!」

「私達も手伝います!」

「ん…………私とミナトだけでいい」

「なぜ!?」

「俺達だけで足りるからさ」

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