魔王シルバースター編

第102話 ゼルビア王国

「というわけで、できれば道中一緒に行動したいなって思うんだけど、どう?」

「僕らは全然構わないよ! だってヤシロ達ときたら全然C級討伐隊の実力じゃないし、勇者達とも知り合いじゃないか! むしろ僕らがお願いしたいくらいだ!」


 俺は今後の行動を『ベルの音色』のリーダー、ベイルに話した。

 するとベイルは思いのほか好感触であり、ウェルカムな雰囲気をかもし出してくれた。


 討伐ギルドで俺達が勇者と同じ所に入っていくのを見てたらしい。


「ゼロさん、すっごい強いんですね! ミリ、感動しました!」

「ん? まぁそれなりに魔法は訓練してきたからな」

「シーラちゃんもスゲェっすね! 無詠唱で炎魔法使えるとかマジパネェ!」


 それぞれ仲良くなれたみたいだ。

 だがボルザノク、シーラに手を出したらお前の事をボーちゃんと名前を変えて呼んでやるからな。

 鼻水も垂らさせてやる。


「ちなみに俺はA級討伐者になったんだぜ」


 えっへん。

 鼻高々に声高々。


「ホント!? じゃあ階級ランクを飛び級したってこと!? 討伐隊ならともかく、討伐者ランクって上がり辛くて有名なのに」

「これで俺達『紅影あかかげ』も『ベルの音色』と同じA級討伐隊になったから。よろしく」

「いやいやこちらこそ」

「あ、あとこれ報酬金」

「え!? 何で!?」

「詳しいことは聞くんじゃないぜ。野暮ってもんよ!」

「いや理由聞かないと怖いよこのお金!」


 お互い1日の猶予を設け、出発の準備をしたのちシダラクという生き物に乗って移動することになった。


 シダラクはラクダに近い生き物であるが、背中にコブはなく、むしろ平らに近く、走るスピードが速い。

 人を乗せるために生まれてきたような生き物だ。


 シダラクに乗るにあたって猛反対したのが2人いる。


 ミリとシーラだ。


 女性2人組が酔いやすく、スピードの犠牲として揺れが激しいシダラクを却下したのだ。


 揺れが激しいとは言え乗るところは平らで安定しているため、酔わない人にとっては充分すぎる生き物だ。

 さらにその速さは砂漠において目を見張るものがある。


 徒歩で1週間かかるところを、シダラクであれば3日で到着する。

 こればっかりは魅力的すぎるため、2人をどうにか説得してシダラクに乗ることが確定した。


 それでも2人が可愛そうなことには変わらないため、どうにか乗り物酔いを軽減できないかゼロに聞いたところ、治癒魔法で少しは緩和されるようだ。


 勇者一行『グリモワール』のアースであれば、完全に酔いを消すことも可能らしい。

 ということで唯一治癒魔法が使えるゼロを、〝酔いを緩和させる係〟に任命した。


 働け恋する魔者よ。




 シダラクに乗りつつベイカ砂漠横断の旅は5日目を迎えた。


 ここまで魔物が幾度か現れたが、俺達のパーティに苦難という苦難は無かった。

 結晶獣や青海龍のダンジョンに比べれば雑魚みたいなものだ。


 寝る時のみ2人体制の交代で見張りを行なっていた。

 ベイル達も伊達にこの大陸出身ではなく、手際よく魔物を処理していく。


 小慣れたものなのだろう。


 そしてついにゼルビア王国へと到着する。



 ゼルビア王国は今回の魔王シルバースター討伐の指揮をとる、中心の国となる。

 国の大きさはカンバツ王国の約3倍。


 サンクリッド大陸において、シャッタード都市の次に国土と国力を保有している。


 故に討伐隊も国軍も中々の粒揃いと聞く。


 さらに現在は、魔王討伐のクエストに合わせて各国から集中してきているため、討伐ギルドにも人が溢れかえっていた。


「人多くね?」

「クエストっすよ。もう魔王討伐に関するクエストが発令されてるから、みんなピリピリしてるんすね」

「…………やっと気持ち悪いの終わった」

「ミリも幸せだよ。今までで一番地獄だったかも」


 女の子2人組の顔色が良い姿を久しぶりに見る気がする。

 それほどまでに酔うことは辛いのだろう。


 酔わない俺にとっては分っかんね。


「僕達はこのクエストを受理することにするよ。ヤシロはどうするの?」

「一応受理だけはしておこうかなって思う。もうクエストが発令されてるってことは近々大規模侵攻があるってことだよな?」

「3日後って書いてあるぞ」

「うーわほぼ直撃じゃん……。しばらくこの国に滞在するしかないかね」

「ヤシロっちも参加しよう。3人がいるだけで戦局はかなり変わると思うんすよね」

「ミリもゼロさんと一緒に戦いたーい」


 誰かに求められるのって結構嬉しいことなんだけどね。

 でも俺って今まで変なことに首を突っ込んでロクな目に遭ってないからなぁ。


 何回死にかけてるんだって話よ。


「ここに滞在してるって言ってもいつになるか分からないよ。侵攻って言っても1日2日で終わるような戦争じゃないし、ベイカ砂漠からディザード荒野にかけてが戦地になると思うから状況によってはシャッタード都市までの道が遮られるかもね」


 つまりベイルの話ではこうなるらしい。


 魔王シルバースターの領土としては、横に一直線に国境のように分かりやすく引かれているわけではなく、人類と魔族のどちらでもない中間エリアが存在し、お互いに兵をそこに配備して自国への侵入を牽制するかのように睨み合っている。


 そのエリアを通称『開戦区域バルフィード』と呼んでいるらしい。


 シャッタード都市へは、その『開戦区域バルフィード』の直近を通らなければならないため、戦争が始まれば被害範囲が広まると予想されるので、シャッタード都市には行くのは難しいということだ。


「確かに微妙だな……」

「最終的にどうするかはヤシロ達に任せるよ。何度でも言うけど、僕達としてはいてくれた方が助かるけどね!」

「…………考えさせてくれ」


 割りかし人生を左右する選択肢かもしれない。

 俺1人で決めるんじゃなくて、3人で考えよう。


 俺は自己中なリーダーではなく、周りにも気を遣えるリーダーだからな。

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