第90話 生存確認
「1つ聞いてもいいですか?」
「なに?」
瓦礫をどかしながら、フェリスと呼ばれる魔法使いの女の子に尋ねた。
最初は取っ付きにくい子かなと思ったが、中々に優しい良い人だ。
シーラに比べれば全然大したことないぜ。
「俺のこの雷魔法なんですけど……」
「魔王のスキルと似たようなやつよね? それがどうしたの?」
「この魔法で魔導級の雷魔法を防ぐことってできると思います?」
俺はどう考えても相手を引き寄せる、この磁石のような雷魔法で魔導級魔法を防げるとは思えなかった。
もっと他に何か要因があったんじゃないのかと。
彼女は魔法に精通しているようだし、何か分かるかもしれない。
「相手を引き寄せる魔法なんて見たことないのよね。私も雷魔法は使えるけど、攻撃するための手段でしか使ったことがないし、攻撃のためのアシストとして使おうなんて考えたこともない。どうやって発動してるの?」
「いや、それが俺も戦いの中で初めて発動したんで、詳しいことはよく分かってないんです。ただ、グロスクロウがこの魔法で魔導級を防いだって言ってたんで……。『俺と同じスキルの魔法』とも言ってましたし」
「ふ〜ん…………。じゃあ引き寄せるだけじゃなくて弾く方もできるんじゃない?」
「弾く方?」
「そう。無詠唱で魔法を使う時の感覚は分かる? その際、体から魔力を雷に変換させて発動させてるわけだけど、その引き寄せる雷魔法の特質を反転させて発動させるの」
……んん?
いまいちピンと来ないな……。
「いまいちピンと来てない顔ね……。要は雷魔法といっても色んな種類があるのよ。詠唱の雷魔法はそれこそ威力の違いだけで雷自体に特質性はないけど、無詠唱で使うとなったら自分でそのあたりをいじれるから、オリジナルの魔法が作りやすいの。分かりやすい例だと、魔族がよく『
そう言ってフェリスは、親指と人差し指の間に紫色の電気を走らせ、バチバチと不安になる音を出している。
すぐに発動できるあたり凄いな。
確かに魔王や魔者が使っているのを実際に見ている。
それに、普通の雷魔法よりもよっぽど痛い。
体の細胞を焼き切るかのように突き刺さってくる。
俺はガルムの能力を引き継いで耐性があるから大丈夫かもしれないが、ゼロなんかは一撃でノックアウトしたぐらいだ。
雷の特質を変えるというのは、そういうことなのかもしれない。
「じゃあ俺は自然と雷魔法の特質を変化させてるってことですかね?」
「そうだと思う。そんな雷魔法は見たことないから、是非私にも教えて欲しいんだけど…………あなた自身も理解していないようだし、難しいかな…………。あ、そう言えば自己紹介遅れてごめんね。私、フェリス・グリゼルって言います。あっちのデカイのはアース」
「すいません、俺の方こそ遅れて。
「ヤシロ君ね。よろしく」
「こちらこそ。それじゃあ雷魔法の特質を理解すれば、引き寄せるだけでなく弾くことも可能になるってことですか?」
「恐らくだけどね。というよりも、魔導級魔法を防いだときはそっちを使ったんじゃないかな。魔導級の威力の雷魔法を引き寄せて直撃なんてしたら、それこそ身が持たないと思うのよね。魔導級の威力とあなたの魔法が反発し合った影響で、ここら一帯が吹き飛んだって考えたほうがしっくりくるもの」
確かに言われてみればそっちのほうが納得できるな。
グロスクロウも、普通なら吹っ飛ぶだけでは済まない的なことも言ってたし。
魔導級を弾き飛ばすほどの魔法だとしたら…………これめちゃくちゃ強くね?
「この魔法を極めれば魔王と同じスキルを手に入れられる、か…………。夢が膨らむなぁ」
「ねぇ、やっぱり私にもその魔法教えてよ。凄い気になるもの」
好奇心旺盛だな。
でも彼女のお陰で何となくこの魔法について分かったし、それぐらいは別にいいか。
「もちろん構いませんよ」
「やった! じゃあひと段落着いたころにでもーーー」
「お2人さん! ここに女の子がおったぞ! 手伝え!」
大男のアースが呼んだ。
彼の所まで行くと、瓦礫に1人の少女が埋まっていた。
真っ赤な髪の毛に誰もが二度見するような可愛さ。
シーラ・ライトナーだ。
「シーラ!」
「む? この子がお前さんの連れか?」
「そうです! うわわ大丈夫かこれ!?」
「安心せい。気を失ってるだけじゃ。それよりも周りの瓦礫をどかそう」
俺はアースと共にシーラの周りに乗っかっている瓦礫を片付けた。
俺が不甲斐ないばっかりに、危うく彼女を失うところだった。
「傷は深いものはない。ワシの魔法ですぐ治るじゃろ」
「良かったぁ……! とりあえずは無事そうで……!」
気絶しているシーラの上半身を抱え、抱き起こした。
アースが治癒魔法をかけると、擦れた傷が塞がっていく。
「…………ん……あれ……?」
「シーラ! 大丈夫か!?」
「ミナト……? どうなったの……?」
「安心しろ。魔王はぶっ倒したから」
「そう…………。ミナトも無事で……良かった」
そう言ってシーラは寝息をたててオチてしまった。
怪我とは別に疲労が溜まっていたようだ。
「ふむ……。寝たな」
「他の人達と一緒に向こうに寝かせておく?」
「いや、俺が背負っていきますよ」
「仲良いんだね」
「運命共同体みたいなもんですから」
とりあえずは良かった。
後はゼロと『ベルの音色』の3人だ。
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