第88話 決着

 現れた男の左目にはガルムと同じ『勇者の証』があった。


 ガルムとは違い、『III』と刻印されている。


「アース。彼を治療してやってくれ」


 治癒魔法を使える人がいるのは助かる。

 大きな怪我がないとはいえ、無理をしすぎたせいで身体の節々が痛む。


「よしきた。じっとしておれ」

「アンタが魔法使うのかよ!」

「何じゃ、人を見かけで判断しおってからに」


 あっちのナイスバディのお姉さんじゃねぇのかよ!

 どう見てもアンタは前線で戦うタイプだろ!

 そのムダ筋肉はなんなんだ!


 あ、でも一瞬で痛みが引いた。

 すげぇ。


「3代目勇者…………共生派の思想とは真反対に位置する人間…………。最優先抹消対象か」

「それはこちらも同じだ。俺の目的は全ての魔王を討伐すること。人類にあだなす魔王グロスクロウ、覚悟しろ」

「奴はあらゆるものを弾き飛ばすスキル、人を引き寄せるスキルを使う! それを複合させて即死スキルを使ってくるぞ! 気を付けろ!」

「魔王の固有スキルか……。ありがとう少年!」


 少年って…………。

 そんなにアンタと歳は変わらんだろ。


 魔王は勇者達が相手をしてくれる。

 だけど初代勇者は魔王ヴィルモールと相打ち、ガルムは魔王リネンを倒した後に行方不明となった。

 彼らが魔王グロスクロウに勝てるという保証はない。


 それなら俺は、彼らに任せるだけじゃなく、共に戦う選択肢を取るべきだ。


神剣流しんけんりゅう……一の剣技『神速しんそく』!」


 勇者の攻撃を皮切りに、戦闘が始まった。

 勇者が最前線で戦い、それを追撃するように剣を構えた男とナイスバディ姉さんが向かう。

 状況に応じて女の子が場所を移動し魔法を放ち、誰かが少しでも傷つけば、オッサンが治療する。


 やっていることは簡単なことだが、簡単故に一切の隙がない。

 まるでサッカーや野球と同じように、基本を完璧に極めたチームが強く見えるように、彼らのコンビネーションは完成されていた。


 個で勝る魔族に対して、連携で勝負すると言っていた『ベルの音色』の完成形が彼らなのだろう。


 それでも魔王は凌ぐ。

 魔力が尽き、俺達からの連戦にも関わらず、人類最強と謳われる討伐隊の攻撃を凌いでいる。


 このままじゃジリ貧だ。

 勇者側の魔力が尽きれば逆転する可能性がある。

 それならば、俺という存在はここに一石を投じる存在になればいい!


 シーラ達は…………無事であることを祈るほかない!


神剣流しんけんりゅう七の剣技『斬神ざんしん』!」

「小賢しい」

「ぐっ…………! あまり近寄れば少年が言っていた即死スキルを使われる……。迂闊には近づけないか……!」

「距離をとれグリム!」


 隠れるための建物もない今、一度でもスキルで引き寄せられれば終わりだ。

 だけど……俺のこの魔法なら……奴のスキルを無効化できるこの魔法なら……!


 無詠唱で魔法を使うコツは掴んだ。

 後はこれを応用するだけ。

 雷魔法しか使えない俺は、雷魔法を極めればいい。

 万能なのに越したことはないが、一芸に秀でているだけでも通用する。


 勇者達が戦っている間に極める!

 オリジナルは出来なくても、真似することぐらいは出来るはずだ!

 思い出せ…………あの村で魔者が使っていた魔法を……!


 身体に電気を意図的に流し、その反応で雷のスピードで移動することができる魔法!

 身体の外側ではなく内側の筋肉系に電流を流し、まるで静電気に触れた時に人が反射的に手を引っ込めるように、その反射を自身の身体全体で行うように…………!


「…………電光石火ライズ


 バチッ! という音とともに俺は移動していた。

 立っていた場所から約30mほど先にいた。


 まさか一発目で成功するとは……!

 天才じゃん俺!


「勇者が苦戦してる……! 俺に任せとけって!」


 ヤバい調子に乗ってきた。

 早く新しい技を試したくてしょうがない犬っころみたいだ。


電光石火ライズ!」


 バチッ!

 俺は瞬時に移動した。

 瞬間的な移動なら圧倒的にこちらの方が早い。

 ただ、欠点があるとするならば、扱いが非常に難しいことだろう。


 俺はグロスクロウの目の前に移動していた。

 唐突に、お互いに驚く。

 俺も意図してここに移動したかったわけではない。


 グロスクロウが弾くスキルを発動。

 俺はそれを無効化する謎の雷魔法を発動。

 お互いに何も起こらず、一瞬時が止まる。


「神剣流……十の剣技『心神流々しんしんりゅうりゅう』」


 グロスクロウの心臓に剣が突き刺さった。

 捉えようもなく、近付くこともできなかった魔王が、何とも呆気なく、致命傷の一撃を受けた。

 勇者と同士討ちをしたという15人の魔王の1人との戦いは、呆気ない幕引きとなったのだ。


「私がいなくなれば…………人類と魔族との共生が…………」

「人類との火種を生んでいるお前がいなくなれば、世界はもっと平和になる」


 勇者がグロスクロウから剣を引き抜いた。

 グロスクロウが膝をつく。


「少年よ……私の意思は……お前が継ぐのだ」

「ぶさけんな。断る」

「少年ほどの適任はいない……。魔法によって私と同じスキルを使える少年ならば…………」

「それは……どういう意味だ?」

「お前の雷魔法は……全てを弾き、引き寄せる魔法だと推測する」


 俺の雷魔法が?

 マジで?


「『天雷』もそれで防いだのだろう…………でなければ、周りが吹き飛ぶだけなどあり、えん……」

「おい! その辺り死ぬ前に詳しく教えろ!」

「クハハ……ハ……だが………………勇者は殺す!」


 突然動きだし、手刀を勇者に向けて放った。


 ガキッッ!!!


 見えない障壁が勇者を防いだ。


「グリムには指一本触れさせない」


 女の子の魔法使いが何かしらの魔法によって、勇者を守ったのだ。


「魔王グロスクロウ…………。さらばだ」


 魔王グロスクロウは砂となって消えた。

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