第66話 青海龍の洞窟4

 中級魔人3体を俺、シーラ、ゼロの3人で一体ずつ受け持つ。

 3体を相手にしていたゼロはもちろん、今の俺なら中級魔人1体を相手にするのに遅れは取らない。

 心配点だけで言えばシーラぐらいか。

 剣術を一切使えず、身体能力も並のシーラにとって、中級魔人に詰め寄られれば速さでやられる恐れはある。


 とはいえ、既に俺が魔術級の雷魔法を食らわせているため、手負いの中級魔人を仕留められないほどシーラは弱くない。

 ゼロによれば、シーラの放つ炎魔法の威力は魔術級〜魔導級レベルにあるという。

 そんな高火力の魔法を食らい続ければ中級魔人といえど消し炭同然だ。


 故に俺は心配することなく、長剣を取り出してこちらに向かってくる中級魔人にーーーーーー


「集中できる!」


 中級魔人の長剣はリーチがあり重量感溢れる武器でありながらも、まるでプラスチックで出来ているかのような速度で振りかぶられた。

 俺はそれを『雷鳥』で受けきる。


 速さは重さだ。


 ズシリと衝撃の重い一撃が腕に伝わる。

 それでも剣は弾き飛ばされないし、片腕で防ぐことができる。

 スサノ町で戦った時よりも俺自身の力が上昇している証拠だ。

 続く連続攻撃に対しても防ぐのが精一杯だったのに対し、今では反撃を狙う余裕がある。

 剣速が速くなったこともそうだが、1番の要因は動体視力だ。

 中級魔人の動きがハッキリと見える。


 その動きに対して適切に行動するだけで中級魔人の攻撃を防ぐことが出来るようになった。


「そりゃ、俺の攻撃は剣だけじゃないぜ」


 空いている左手で『獅子脅し』を持ち、攻撃を防ぎつつ銃でひたすら撃つ。


 ドンッ!

 ドンッ!

 ドンッ!


「ゴアッ…………オオオ…………」

「スサノ町で会った時は結構絶望感あったけど……一対一ならもう余裕だな」


 黄色い体液をダダ流しにしながら魔人の動きが鈍くなる。

 そのまま両腕を切り落とし、魂弾ソウルバレットによって中級魔人を黄色のビー球に変化させた。

 他の2人を見ると丁度同じタイミングくらいで倒していたので、横から魂弾ソウルバレットをぶっ放してビー球に変えた。


「お、何だ? それが伝説の武器の特性か?」

「イエス。魔人を自分の手駒にできるのさ」

「すげー便利じゃねーか」

「ミナト……まだ私が戦ってたのに」

「ずっと豪炎を浴びせ続けてただけの作業が戦闘と?」

「それが一番倒しやすいんだもん」

「じゃあ残るは…………あの水の龍か」


 先に戦っていた討伐隊が今もなお苦戦している水の龍。

 見ている限りでも物理攻撃は効かなそうだ。


「あれが青海龍ってことなんかな。魔法主体じゃないとダメそう?」

「剣で切りつけていたのを見たが、全くのノーダメージだったな」

「じゃああんまり俺の出番は無いかな……。もしかしたら『獅子脅し』の攻撃は効くかもしれないけど」

「とはいえ、俺も魔力はそんなに残っていない。デカい魔法は打ち出せねーぞ」

「シーラは?」

「ん……微妙」

「あんまり残ってないか……」


 あんまりここで長話も良くないし、一旦引いたほうが良くないか?


「何で死人を出しておいてまだ戦ってるんだろうな」

「元々は逃げられなかったんじゃないか? 中級魔人がいたからな」

「よし、俺たちで隙を作って一度引き返そう。魔力も少ない以上、一度休憩を挟まないと」

「俺が青海龍の気を引くか?」

「いや、俺とシーラでやる。ゼロはあの人達に事情を話して部屋の外まで避難して」

「了解した」

「シーラは魔力使い切っていいから炎魔法ぶっ放してよ。あわよくば蒸発するんじゃね?」

「わかった」


 よくある話だと体のどこかに核みたいなものがあったりするんだけど、この龍の場合はどうだろう?

 それだけでも分かればいいんだけど、未知の敵と戦うのに援護も無しに自分の力を過信するのは良くないからな。

 敵の攻撃で頭パーンでもしようもんなら即死だ。


 そうだよ死ぬんだよ。

 なんか心の奥底で自分は死なないとか謎の自信があるけど、下手したら死ぬかもしれないんだよ。


 スサノ町の時だったり、シジミの時も何だかんだで助けられてきたけど、今後もそんな都合の良いことが起きるとは限らないんだから、もう少し気合いを入れないとだな。


「シーラ!」


 俺の合図でシーラが火球を連続で作り出して青海龍にぶつけた。

 ボッ! という音と共に火は消えてしまう。

 そんなに火力を上げた攻撃ではないが、やはり効果は無さそうだ。

 それでも当初の目的である気を引くことはできた。


「!! アンタら中級魔人は!?」

「もうやった! お前ら全員一度この部屋から引け! 俺が部屋の外まで援護してやる!」

「だが…………死んだアイツらの亡骸を……」

「アホ! 全員へばってんだろーが! 態勢を立て直してから迎えに行け! 俺たちがここまでしてやってんだから指示に従えよ! 従えないんならここで死ね!」


 うわぁ口悪すぎ。

 ガチで不良みたいやなゼロは。

 ……っと。

 そっちを気にしてる場合じゃねぇや。

 俺はこいつをどうにかしないと。

 試しに銃で撃ってみると…………ダメか。

 一瞬当たったところが陥没するけど直ぐに元に戻る。


「なら核みたいなものがないか探すか」


 俺が周りを移動しながら体のどこかに核らしきものが無いか探していると、青海龍の口から一本のレーザーみたいなものが放たれた。


「危ねっ!」


 なんとかかわしたが、地面に穴が空いていた。

 ただのレーザーっていうか…………超水圧レーザー?


「なるほどね……これは当たったら貫通しそうだわ……」


 ゼロの方を見ると、怪我人を含めた6人が避難していくのが見えた。

 引き付けるのはもう充分だろう。


「俺達も引くぞ!」

「うん」


 青海龍が再度レーザーを放ってきた。

 それを避け、ついでに実験がてら飛撃ひげきで青海龍の体をぶった切ってみた。

 体の半分ほどまで切れ込みが入ったが、直ぐに全快してしまう。

 やはり物理攻撃は効かないみたいだ。


「これは逃走じゃない! 戦略的撤退だ!」


 去り際、見事な雑魚っぷりを発揮する負け惜しみを言って俺達は一度部屋を引き返した。

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