第50話 獅子脅し

 銃の名前をそろそろ真剣に考えようと思うんだ。


 武器に名前をつけると愛着が湧くとどっかの勇者もどきも言っていたし、実際この『雷鳥』もだいぶ愛着が湧いてきたし。


 これのスゴイところが、下手に手入れをしなくても錆びないし刃こぼれもしないところだ。

 本当に良い素材で作られてるんだな。


 で、だ。


 銃の名前についてなんだが、ぶっちゃけもう考えてある。

 デウロスとかいう尻尾巻いて逃げたチンピラが言っていた言葉から参考にしたものなんだけど、奴は「獣も恐れるような武器」と言っていた。


 ということで発表します。


 魔王ヴィルモールが作成し、伝説の武器となっているこの武器は、『獅子脅ししおどし』、と命名しました。

 ライオンですら銃の前では音と威力に逃げ出してしまうだろうということから名付けました。


 異論は認めん。


 てか実際のところピッタリの名前かどうかはともかく『ヤシロン』とかいうセンスのかけらもない名前よりもマシだと思うんだ。


 流石にアレは引いた。


 

────────────────────

 


「ヘックション!! …………誰か噂してるのかな。なんとなくミナトな気がする」


 

────────────────────



 なんか今ゾッとした!

 遠くから監視されてるような気分だ!


 冗談はさておき、大体3時間ぐらいは寝れたかな?

 シーラは……まだ寝てるな。

 よう寝てるわホント。


 とはいえ俺も外が少し騒がしいから起きたんだけどね。

 そんで今もだけど、シーラが俺の膝を枕にして寝てるから動けなくて暇つぶしに名前を付けようとなったわけですよ。

 恐らくだけど、外にいるのはたぶん新しく来た討伐隊とかだろうな。

 村の惨劇見て慌ててるって感じだろう。


「あ」


 ガチャリと音がして家の扉が開き、男が入ってきて居間でくつろいでいる俺達と目が合った。


 何だよ。

 何で固まってんだよ。

 俺達がこんな死地でイチャついてるカップルにでも見えたか?

 とりあえずこういう時は先制挨拶だな。


「ちゃーす!」

「生存者がいたぞ!」


 おい、挨拶されたらまずは挨拶で返すのがジャパニーズマナーだろ。


 礼節と節度を持ちなさいよ。

 ちゃーすという挨拶に礼節と節度があるのかは知らんけど。


「君達大丈夫か!?」

「大丈夫です」

「そっちの女の子も死んでるわけじゃないのか!?」

「寝てるだけですけど」

「ここにいた魔王軍の奴らはどうした!?」

「もういませんけど」

「他に生存者はいるか!?」


 もー何こいつー!!

 すげー質問責めしてくるー!!

 よしんば俺が被害者だったとしても失礼だからなこれ!


「ん……なに……? うるさい……」


 あーほら元お子様が起きちゃったじゃん。

 普通はみんな元お子様だけど。


「ホントに寝てただけだったんだな、良かった!」

「!? え……? え……? うるさい」


 うるさいってさ。

 ガッツリ嫌われたなこの人。


「ああ、すまない。驚かせてしまったか?」

「この子大声出したり質問責めする人が苦手なんですよ」


 さらりと質問責めの件も含めておく。


「それは失礼した。なにせこの村に応援要請が入って来てみればこんな有様だったものでな……。俺も少し気が動転していたみたいだ」

「確かに仕方ないと思います」

「それで他に生存者は?」

「さぁ……自分達はずっとこの家に隠れてましたから。ただ、魔者達はほとんど死んでますよ。生きてるのもいましたけど……動けるのは少ないと思います」

「ああ、それは俺達も確認した。一体誰がやったんだろうな……」


 俺でーす。

 って言ってもいいけど、そうすると事情を色々説明したりするので時間を拘束されそうだからやめとこう。


 応援要請で来たってことは多分この人達はシャンドラ王国から派遣されて来たんだろうし、今はあの国とは絡みたくないからな。


「じゃあ自分達はそろそろ行くんで」

「待ちたまえ。ここから2人で帰るのは危険だろう。俺達が送っていくよ」

「大丈夫です。すぐ近くの国に知り合いがいるんで。そこまでだったら自分達だけでも行けますし」

「でもまだ近くに魔王軍の残党がいるかもしれない。送っていくよ」

「抜け道知ってるんで」

「ならそれを通って送ろう」


 引き下がれや!!

 なんで頑なに送ろうとしてくるんだよコイツ!

 過保護か!


「いやホント大丈夫なんで。他にも隠れてる人とか居ると思うんで、そっちを探してあげて下さい」

「そこまで言うなら……分かった。気を付けて行くんだぞ」

「ありがとうございます。行こうシーラ」

「うん」


 この人も悪い人じゃないんだが、空気が読めないいわゆる天然悪な人だ。

 そういう人は割と厄介。


 俺達は村から出るべく歩き出した。

 そこかしこで討伐者の人達や王国の兵士が走り回っていた。

 死体の回収やら事実報告やらで忙しいのだろう。

 現場の仕事はいつでも大変そうだ、と社会に出たことがない俺が言ってみる。


 さて、かなり長時間道草を食ってしまった。


 そろそろ日が落ち始めてるし、急いで目的の国まで移動しないと。

 最初はここで休む予定だったけど、こんな人がいっぱい死んだ所で一夜過ごすのもなんか嫌だしね。


 とりあえずサンクリッド大陸に近づく方向で1番近い国が……地図を見るとマリン王国って所か。

 じゃあ日が落ちきる前には到着出来るようにしよう。

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