6.邂逅
「イスティ様、質問よろしいですか?」
イスティに少し聞いてみたいことがあったので、僕は挙手して話しかけた。
「・・・・・いいでしょう。」
少し間があったが、許可いただけた。ドラゴンは表情がわからないな。
「僕はユウと言います。単刀直入に伺います、イスティ様は古代人やレガシというものをご存じですか?」
イスティは、世界の利に通じているように見える。ならば、何かの情報が得られるのでは?
「・・・・・あなたは・・・・・、それについては、私からお伝えできません。私には、それをお伝えする力がありません。」
これは、何か関係があると言っているに等しいな。しかし詳細は得られないか・・・・。
力が無い、とはどういう意味だろうか。
「私から言えることは一つ。ラファとの旅を続けると良いでしょう。それがあなたの求める答えに、近づく道になるはずです。」
ラファ戸惑うような顔をしていたが、この言葉を聞いて、少し嬉しそうにしていた。
どのみち、ラファとの旅は続けるつもりだった。引き続き、龍神の社巡りをしろということか。
「わかりました。ご助言ありがとうございます。」
僕とラファは円陣に乗った。気が付くと、教会の石扉前だった。
イレイナさんがすぐに出迎えてくれた。夕食でもとのお誘いをいただいたが、ラファが激しく緊張していたので、疲れを理由に辞退させていただいた。
教会から出ると、既に夕方だった。宿に向け、二人で歩く。
「・・・・、古代人とかレガシって、なに?」
ラファが言いづらそうに聞いてきた。
「探している船とは別に、少し確かめたいことがあるんだ。」
実際、この星は僕の知る"普通"とはだいぶ違う。そこにレガシの介在があるように感じていた。
イスティのあの回答は、僕のこの推測を裏付けたと言っていい。しかしレガシ自体の情報は得られなかった。
「もしわかったら、ラファに教えるよ。その時は、また二人の秘密な。」
言いふらされたら困るし、秘密にしてもらえるとありがたい。
ラファは、はにかむように笑う。
「うん、二人の秘密ね。」
『・・・・・・・・。』
アイさん、何も言わないけど。何も言わないけど・・・・・。顔があったら、絶対、にやついてる。
その日は宿に戻ると、夕食もそこそこに、すぐに休んだ。疲れていたのは本当だったしね。
翌朝、保存食など買い足し、昼前にはウイルコースを発つことになった。
ラファは、ブレイヴの使命に、かなりのプレッシャーと責任を感じているようだ。
だから、休むのは最小限で旅を続けようとする。あまり気を張りすぎると、体が持たなくなってしまう。適度に力を抜けるよう、気にしておいた方がよさそうだ。
次の目的地はかなり遠い。地図を見せてもらったが、ほぼ大陸の反対側まで行くことになる。途中王都も経由する。
ウイルコースは人族の領域では西端にあたる。
次の目的地は大陸南端、半島の先にある町、アム・デナ・サウだ。
ラファにとっても、これまでで最長の道程らしい。途中の村で食糧などの補給も考えなくては。
そういえば、馬や馬車などは無いのだろうか。乗り物に乗れば、移動も楽で早くなるし。
「馬は、売っているけど。私乗れない。馬車も、操り方を知らない。」
あ、そういえば、僕も馬乗れないな。乗ったこと無い。仕方ない、徒歩で行くか。
コルト村からウイルコースまでの道のりは、山からの下り道だった。山間を縫って歩くので、いろいろ景色も違いがあってよかった。
しかし、今歩いているのは荒野だ。見渡す限り荒れた大地が続いている。
馬車の轍や足跡が大量に続いていることからすると、往来はされているらしい。今のところすれ違ってはいないが。
途中、デザートウルフやら、砂サソリ、レッドリザードなどのクリーチャーに襲われつつ、4日ほどで、ハイ村という場所に到着した。
ここで一泊しつつ、食糧補給などをする。
宿泊代を支払い、それぞれおばあさんの一人暮らしの家と、おじいさんの一人暮らしの家に泊めてもらうようお願いした。
ウイルコースの一泊分と同じ400ジェニを支払うと、快く受け入れてくれた。
さて、また村人の心象向上作戦として、周辺へ採取に出かけますか。早速五感精度を上げ、周囲を確認する。
お、いつもと違う反応がある。これは、純度の高い金属反応?なんだろうか。
僕は金属反応のする場所に向かった。
「こ、これは・・・・・・・。」
卵だ。そう、ソレイユから装備品射出に使うアレだ。卵は割れてしまっている。
「ということは、ソレイユも近くにあるのか!?」
再度、金属反応を探す。が、近くにはなさそうだ。僕が落下したのと同じように、墜落の過程で卵だけ落下したのか・・・・。
そういえば、中身はなんだろうか。
「な、なんと!」
これは使える!!
その後、僕は上機嫌でガンガン採取を行い、村人たちから奇異と驚愕の眼差しをいただいた。
『重力震検知。100m以内で重力操作が行われました。』
半分以上、寝入りかけていた頭を勢いよく起こす。
既に深夜12時を回っている。家主のおじいさんを起こさないように、静かに外に出る。
村の中心部、少し広場のようになっている場所に闇が渦巻いていた。渦の中から、黒い甲冑が出てくる。
空気がひび割れるかのうようなプレッシャー、すさまじい存在感だ。僕は身動きできず、凝視してしまった。
「ほぅ、余の転移を事前に感じ取るとは・・・・・、貴様が今世のブレイヴか?」
声の調子は落ち着いている、しかし、言葉の一言一言がまるで大太鼓のように響いてくる。威圧感が体に纏わりついてくるようだ。
僕は自分に気合を入れなおし、黒い甲冑に答える。
「いや、僕は違う、が、まず話をするなら、名乗ったらどうだ?」
やや挑発気味すぎたか? 相手の反応を見る。しかし、黒い甲冑は特に怒りを感じた風もない。
「そうだな、これは失礼した。」
そういうと、黒い兜を脱ぐ。中から濃紺の髪を短く揃えた美丈夫が現れた。ただ、普通の人族と大きくことなり、耳の先が尖って長く、肌は青い。これが亜族か・・・・?
「余はガイラスルトイリーガ、今世のダークロードとして誕生した。名前が呼びづらいようなら、ガイラと呼んでくれて構わぬ。」
なんと、ラスボスのご登場だった。
わずかに物音がしたため、横目で確認すると、ラファが小屋から出てくるところだった。おそらく、ラファも何かに感づいて出てきたのだろう。
暗くてよくわからないが、多分顔色は真っ青だな。かなり震えている。
僕はガイラから視線を離さず、ラファに近寄る。ラファを護るように、前に立つ。ラファが僕の服を軽く握っている。
「ユウ、あれは、誰?」
「ガイラスルトイリーガ、ダークロードだそうだ。」
僕の服を握る手がビクッっと反応した。倒すべき宿敵が、いきなりこんなところに現れるとは思わないよな、たしかに。
「そなたが今世のブレイヴかな、そう身構えるな、余はそなたと話をしに来ただけだ。」
そう言って、ガイラは広場横の石に腰掛ける。
「これでも、周囲の目を盗み、ここまで来るのに苦労したのだぞ?」
ガイラはやれやれと言いたげな雰囲気だ。割と話せそうな人物といった感じだが、油断は禁物だな。
ラファを伴い、ガイラに近づく。それでも3m程度以上は近づかない。これでも十分危険な距離だろうが、会話する以上、あまり遠くては話しづらい。
「いきなり信用しろと言われても難しいか。まあ致し方あるまい。」
この距離感に、多少話しづらさは感じつつも納得してくれたようだ。
「僕はユウ、こちらはラファ。ラファがブレイヴだ。」
「改めて名乗らせてもらおう。余はガイラスルトイリーガ、今世のダークロードだ。呼び名はガイラで良い。」
ガイラは改めて立ち上がり、お互いに自己紹介する。
相変わらずプレッシャーがすごい、が、少し慣れた。いや、ガイラが極力圧力を出さないようにしているのか?
「ラファよ、そなたはブレイヴとして、試練の旅をしていることだろう。その旅の果て、余と戦うことになるのだろうが、これについてどう思う?」
ガイラは真剣な眼差しを向け、ラファに問うた。
ラファは視線を泳がせ、何を言っていいか分からないといった顔だ。
「・・・・・・・、わ、私はブレイヴの、使命だし、みんなに期待、されているし、いろいろな人に、助けられているし・・・・・。」
少々支離滅裂ながらも、なんとなく言わんとすることはわかる。
「ふむ、使命に追われ、試練に挑む旅の最中にあっては、その意味を思惟する余裕はないか・・・・。」
ガイラは、しばし黙考したのち続けた。
「余は、この関係に、大いなる違和感を感じておる。なぜ、戦うことが運命づけられた存在が誕生するのか・・・・。なぜ、討たれることが運命づけられているのか。」
そうか、ダークロードは必ず倒されているから・・・・。
「余は亜族に残されたダークロードに関する記録を調べた。ダークロードは討たれてから128年目に復活し、そして必ず討たれる。」
「え、128年?」
僕は思わず聞き返した。約100年と聞いていたが、まさかぴったり128年なのか?
「そうだ。必ず128年だ。復活の度にブレイヴが選ばれ、旅立つ。そしてブレイヴはフォースロードとして覚醒し、ダークロードを討つ。それが約1000年、変わらずに続いている。」
128年で必ず復活する。ブレイヴが敗れたことが無い。確かに作為めいているな。
「亜族と人族の対立も、この1000年、全く変わりが無い。はたしてこれは普通のことなのか。」
種族間の対立は根深いだろうから、なんとも言えないが・・・・、でも1000年間、種族単位で全く変わらないというのも少々異様だな。
「1000年の歴史を紐解くと、亜族と人族の間で、不自然とも取れるような戦乱がたびたび起こっている。何者かが、争いを助長しているかのように・・・・。」
何かが介入、もしくは暗躍しているということか。
「思い返せば、ここ数年でも、動機や目的が不明瞭な軍事行動、戦闘行為が行われているのだ・・・・。余もここに至るまで、あまり不自然に感じていなかったのだ、情けないことにな・・・・・。」
ガイラは自嘲気味に言った。
「1000年続いた流れは、もはや変えることは叶わぬのかもしれぬ。だが、これほど運命づけられている状況は、何か原因があるのではないかとも考えるのだ・・・・。それが分かれば、争いあう運命にも異なる流れが生まれるやもしれぬ・・・・・。」
ガイラはラファを見つめている。ラファは絞りだすように声を出した。
「・・・・・、私には、わからない、です・・・。」
この星でずっと暮らしていると、確かに感じないかもしれない。それが普通だから。むしろガイラがこれに疑問を感じたことに驚きだ。
「余は既に様々な手段を用い、探れる場所は探った。しかし、原因らしきものには辿り着けなんだ。逆の立場であるブレイヴのそなたは、また余とは違った何かに辿り着くやもしれぬ。」
ガイラは立ち上がり続けた。僕は少し警戒する。
「だから、手がかりを見つけられたら、この流れを変える手段を模索してほしいのだ・・・・・。2つの種族を取り巻く、悲しみの連鎖を変える、運命を変える手段を。たのむ。」
ガイラは頭を下げた。たぶん、ガイラも手を尽くしたのだろう、それでも辿り着けない。だからラファに頼みにきたのだ・・・・。
ラファは戸惑いを隠せない様子だが、ガイラの言葉に答えた。
「・・・・、まだ、ガイラ、さんの、言っていることが、よくわからない、です・・・・、でも、私も悲しい戦いは止めたい・・・・・。」
ガイラはゆっくり顔を上げ、優しげな表情でラファに言う。
「それでよい。何もかも手探りだ。焦らずに見つけてほしい・・・・。それに、そなたは一人ではないのだろう?」
ガイラがチラリと僕を見た。
「・・・・・うん。」
ラファが頷く。俯いているので、表情は見えない。
「余はそろそろ戻らねば。城を抜け出したことに、そろそろ気づかれる。」
ガイラは手に持っていた兜をかぶる。手を翳すと、先ほど同様の闇の渦が生み出される。
「そうだ、あと一つ・・・・・・、」
闇の渦に入りかけながら、ガイラが思い出したように言う。
「ここまで1000年続いた運命だが、今世だけは、少々流れが異なっておる。非常に僅かな違いではあるがな。これが良い傾向ならば喜ばしいことだが、果たしてどうなのか・・・・。そなたらも気をつけよ。」
ガイラは闇の渦に入った。 一気にプレッシャーから解放され、脱力する。
「うはぁ・・・・・・・・・・・ん?」
闇の渦は消えず、まだ残っている。なんか闇の渦に見られているような気がする・・・・・・。
じっと渦を凝視する、渦は小さくなって消えた。なんだったんだ?
それにしても、今回だけ流れが少し違う、か・・・・・・、それはダークロードが流れを変えようとして動いている成果か、まさか僕が現れたことによる影響か、それとも、全く違う別の要因か。
いずれにせよ、今はまだわからない。
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城に戻ると、予想通り、側近にお小言をもらった。もう一歩早めに戻ってくるべきであったか。
書斎に戻ると、手帳を開く。手帳には、1000年の歴史調査や、自身の所見などを書き込んでいた。そこの一ページが目に飛び込む。
子供に読み聞かせる、おとぎ話の一文だ。
『昔々、天使と悪魔が居ました。悪魔はたくさん人を食べ、動物もクリーチャーも食べました。
もう悪魔に食べられるのは嫌だ、天使も人間も亜人も悪魔と戦いました。
龍の神様が悪魔を捕らえ二度と悪さをできないように、空に浮かべ、月にしてしまいました。』
この世界の者なら、大体誰でも知っている。この世界には月が二つある。それになぞらえたおとぎ話かもしれない。
しかし、1000年前、大きな争いがあったことは、他の記録にも残っている。
龍の神様とは、龍神たちではないのか? では、月になった悪魔は・・・・・。
これは、この世界の流れと何か関係があるのではないのか?
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