9.天墜の梢
さっそく、天墜の梢の座標を管理者に連絡した。ついでにダルクさんに協力してもらい、聖杯に残る天墜の梢の性能情報も送った。
銀河連邦の首都であり、まさに中枢とも言うべき都市、セントラル。
銀河連邦設立時、その中心となるべく設立された都市だ。惑星全体で1都市を形成しており、人口は50億以上、まさに宇宙最大の都市といえる。
羅針盤が示した座標は、セントラルの海中だった。
カルミーニ崩壊時、セントラルにも多くの避難民がやってきた。状況的に飛んでいるのが不思議なくらい損壊している艦船も多かったらしい。
そのうちの1隻が宇宙港まで飛行できず、海上に着水した。幸い、避難民は救命艇で下船したが、船はそのまま海中に没した。
天墜の梢は避難民と共にセントラルまで運ばれ、艦船とともに海中に沈んだようだ。
管理者も、避難民と共に運ばれた可能性は考えており、追跡調査はしていたらしいが、60億からの人間が宇宙のあちこちに避難した。その全てには調査が追い付いていなかったらしい。
さらに悪いことに、既にコルンのものと思われる船が海中を捜索中らしい。もはや先を越されるのは止められないか・・・・。
それにしても、よりによってセントラルとは。不幸中の幸いなのは、現場海域が市街地から離れていることか。
『超光速ドライブ終了します。』
艦内にアイの声が響く。スクリーンには惑星セントラルが映し出される。
良かった無事だったか。ついたら廃墟でしたなんて、シャレにもならないし。
「さっきの通信で、管理者には聖杯のデータを送ったが、お前にも天墜の梢について話しておく。」
セントラルに向かう途中、ダルクさんがそう切り出した。
ダルクさんは大きな寸胴鍋に入り、上半身だけを立ち上がらせている。
液体であるため、容器に入っていないと落ち着かないらしい。しかし、救命カプセルは大きすぎてブリッジに入らない。
艦内を探し回った結果、ダルクさんが入れそうな容器は寸胴鍋くらいだったのだ。下半身寸胴の銀色な人物。なんとも表現しがたい絵面だ。
「アレは梢の名が示すとおり、まさに先端だ。見た目は人間サイズの槍だが、アレの後ろには、大型戦艦数機分に匹敵する動力機関と、そのエネルギーを用いる巨大な粒子加速器が繋がっている。」
どんな状態なんだ?いまいち想像できない。
「細かい技術については省くが、アレの本体は異空間に格納されていて、この空間に見えているのは砲身の先端部分だけなのだ。粒子加速の時間は必要だが、アレの粒子砲最大出力は、惑星程度なら容易に串刺しにする。」
ダルクさんの表面がわずかに波立つ。震えだろうか。
「粒子砲は拡散発射することも可能だ。他にも牽制用の高出力レーザーも10門ほど搭載されている。」
人間サイズの超大型戦艦と戦うようなものということか。規模感のギャップがすごい。
もし戦ったら、あっという間に穴だらけ・・・・・、いや消し炭か。
話をしている間に、惑星セントラルの衛星軌道まで接近した。地上が既に伺える。セントラルに来たのは初めてだ。
噂通り、大都市が延々と広がっている。残念だ、こんな状況でなければ、ゆっくり見物するのに。
ダルクさんもセントラルを見やりつつ、再び口を開く。
「アレにはもう一つの特性がある。起動者は、アレに取り込まれ、粒子化、情報化される。つまり、実体を失い、アレの一部として稼働する電子データになるのだ。」
三種の神器ってそんなんばっかりじゃないか。聖杯もそんな感じだし。
「起動者は二度と元には戻らんし、停止もできない。だから、起動すると止める方法は、ほぼ無い。」
「ほぼ・・・・、ってことは?」
「うむ、弱点と呼べるほどではないが、2点、アレを止める方法がある。」
お、意外にも弱点が二つもあるらしい。
「情報化された起動者は、アレの膨大なデータの海にのまれ、約10時間ほどで自我が消滅する。そうなると起動者を失い、アレは停止する。おそらく先日の起動時には、この理由で停止したんだろう。」
それ、弱点違う気がする。10時間やりたい放題じゃないか。そりゃ、惑星崩壊するって。
「もう一つ、起動後、約10分以内なら、起動者を殺しうる。起動間もない時点では、起動者の粒子化が不完全だ。その時点で起動者を殺害することで、強制的に停止させられる。」
10分 Or 10時間。なんとも極端な稼働時間。
『外部通信です。お繋しますか?』
お、管理者から連絡かな?
「ああ、繋いでくれ。」
「よぅ。」
「あれ、リック?どうした・・・・」
その時、地上に一条の閃光が走った。
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海中に沈む廃船、もともとは格納庫だったであろう場所は、外壁が崩れ、内部が露わになっている。その中、廃材の山の中からついにソレを発見した。
潜水服の男が、ハッチから上がってくる。手には長尺の槍を持っている。
「長かった、ようやくだ。ようやく手に入れたぞ。念願だった、天墜の梢。これがあれば、サロマナなどという狭い世界ではない、銀河連邦を手中に収めるのも不可能ではないぞ。」
雇い主は弛んだ顎肉を興奮気味に震わせている。
宇宙船は海上に着水し、待機させている。潜水艇はお世辞にも広くは無いが、雇い主は海上で待つことはできなかったらしい。
「いよいよ、わしの時代かのう、ぐっはっはっは」
クッション材入りのハードケースに天墜の梢を入れる。護衛の一人がケースを閉める。
「浮上だ。」
オレは操舵している部下に指示を出す。
着水している宇宙船の横に、潜水艇を接舷した。宇宙船の甲板上に乗り移る。
「よし、引き上げるぞ。」
雇い主は上機嫌に言う。
「いや、あんたはここまでだ。」
雇い主の両足を銃で打ち抜いた。肉ダルマのような雇い主は、情けない悲鳴を上げながら甲板上に転がる。
「な、なにを・・・・・」
「天墜の梢があれば、オレの時代だ。貴様には引退してもらおう。」
銃を向けながら、そう言い放つ。
「わ、わかった、引退する・・・・・、」
オレは部下を呼ぶ。部下は先ほどのケースを持ってくる。
「餞別だ、貴様の欲しかった天墜の梢の力を見せてやろう。」
オレはケースから天墜の梢を取り出す。雇い主の顔がさらに蒼白になる。
天墜の梢から、いや、オレの体全体から青白い光が湧き出す。その途端、この武器の使い方が頭の中に流れ込んでくる。
「そうか、そのように使うのか・・・・。」
オレは思わずつぶやいた。
雇い主を潜水艇側に叩き落とす。
「艦を破壊してもつまらんからな。」
潜水艇の上に転がる雇い主に穂先を向ける。打ち抜かれた膝が立たず、潜水艇の上で四つん這いになり、ガクガクと震えている。
「さぁ、冥土の土産だ。」
穂先から白銀の閃光が迸る。
光の奔流は雇い主を瞬時に塗りつぶし、彼方へと延びていく。
手足が青白い炎に包まれる。体が炎に代わっていく
「ぐふはははは、オレは最強だ・・・・・・。」
オレの体から青白い炎が立ち昇る。
「ディムナガルダ様、飛行型の警備ロボット接近中!! ものすごい数です!!」
部下が戸惑いながら報告してくる。なにを恐れているのか。こんなにも力がみなぎっているのに。
他の部下たちも、ずいぶんとおびえたような目でオレを見ている。
そうか、お前たちもうらやましいのか。なら、ケシテヤロウ
「ディムナガルダ様・・・?」
天墜の梢を横薙ぎにする。部下たちが消え去る。足場にしていた宇宙船も艦橋部分が切り裂かれ、爆炎を上げる。
遠くから警備ロボットたちが近づいてくる。空を埋め尽くす程の数だ。
「ブハハハハハ」
口から青白い炎を吐きだしながら、オレは空を飛ぶ。
警備ロボットたちは、オレを包囲するように展開する。
梢の穂先に光球が宿る。その球から、無数の閃光が発する。オレはそれを振り回す。
まるで長い箒を振り回してるみたいだな。面白いようにロボットが落ちていく。
オレに楯突くのは管理者か・・・・。イイダロウ、オレにタテつくとどうなるか。教えてヤロウ。
その時だった、空から巨大なクジラが落ちてきたのは。
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