第20話
「キャーーーー!!飛ぶ〜〜〜!!」
私は、この台風の中、晩ご飯用のコロッケを買いに横浜のとある商店街に来ている。
黒蜜おばばが半端な知識で
「台風の激しい日にはコロッケを買いに行くらしい」
とか言い出したので私は大変な目に遭っているのだ。
「これって、台風が来る前に備えるので、台風の日に買いに行くのじゃ無いわよね?」
と咥えた買い物籠さんに問いかける。
『諦めて、蜜ちゃん。引きこもりの黒蜜おばばに台風の日の買い物がどれだけ大変かなんて言っても分からないんだから。コロッケのついでに高級牛肉を買って蜜ちゃんの晩ご飯にしましょう。黒蜜おばばの晩ご飯はコロッケで』
「・・・、そうしましょう。黒蜜おばばだけコロッケで、私は高級サーロインステーキにして悔しがらせてあげるわ!全く!」
シャッターが降りた肉屋さんの勝手口から入ると
「蜜ちゃん、早く来て正解だったよ。今日は店頭は閉めて、朝早く起きて注文でお客さんが取りに来る惣菜を仕込んでたんだ。それも午前中だけの受け渡しで」
国道16号線に近い商店街にあるお肉屋さんの厨房から顔を出したおじさんが私に言う。
私が注文だけと言う言葉に戸惑っているとおじさんが
「大丈夫だよ蜜ちゃん、コロッケなら大量に揚げてるから。注文以外でも裏から買いに来る人用のがあるんだ(笑)ここ数年何故か台風たとコロッケが売れるんだよねー」
咥えた買い物籠さんからフォログラムで床に文字が出る。
『コロッケを10個と高級サーロインステーキ肉を200グラムと牛脂をお願いします』
それを見たおじさんがニヤリと笑いながら
「おっ?差し詰め、黒蜜おばばにはコロッケで、この台風の中に買い物に来た蜜ちゃん用にサーロインかい?」
私は、コクコクと頷いた。
お金を払って店を出ると物凄い風雨。
飛ばされるー!
と脚を踏んでいると急に風雨が収まり晴れ間が!
『蜜ちゃん、コレは台風の目の中よきっと』
咥えた買い物籠さんからの言葉が伝わる。
ふと見ると目の前に子供が。
「私ハビギス、素早いって言うんだ。美味しそうな匂いがそこからする」
と咥えた買い物籠を指差す。
台風の中、こんな子供が外に出てて大丈夫かしら?
私は買い物籠を置き籠の中を覗き込む。
あっ!お肉屋さんのおじさんおまけで揚げたてメンチカツを一個入れて置いてくれてたわ。
熱いので、蓋の空いた袋に入ったメンチカツを子供に渡す。
「貰って良いの?美味しそう、良い匂い」
メンチカツを受け取ったハビギス、早速メンチカツに噛り付く。
ハフハフと食べ終えたハビギス
「美味しい物をありがとう。もう行かなきゃ。素早いって言う名前の意味だからね」
と空を見上げる。
ビューッと強風が吹きハビギスが目の前からかき消えた。
後日、まとめて届けられた新聞を見ると、神奈川県を通り過ぎた辺りの台風の形がメンチカツに良く似てる様な気が・・・。
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