第7話ダイブする

「僕は良いですけど……研二君は良いのか?」


「よろしくお願いします。でも姉が言ったように僕が自ら戻ってこないって事はないです。まだ、この世に未練が沢山ありますから」

研二君はそう言って笑った。この姉弟は案外腹が座っているかもしれない。


「という事で、今からダイブしてくれる?」


「え?今からですか?僕はってっきりこれから飲みにでも行くんだと思ってました」


「高校生が居るのに飲みに行くわけないじゃん。それに今日の会議見たでしょ?各省庁から来た奴は美味しいところだけを持って帰ろうという魂胆で来ていたけど、想像を絶する内容で言葉も出なかったでしょう?後は責任のなすりつけ合いが始まるだけよ。その前にさっさとかたをつけないとこんな事はいつまでたっても解決しないわ」


「そうでしょうねえ……」

僕もその意見には同意だった。


「それにマスコミも何かあるって勘付き始めたようね」


「そうなんですか?」


「うん。まだ数人程度失神した位の情報しか流してないからこんなもんで終わっているけど、数十人規模よ。いつまでもかん口令はしいていられないわ」


「もっともです」


「という事で、今から行って貰うから良いわね」

本当にゆかり先輩にお役所仕事という言葉は無縁だ。

「了解しました」

僕はもう一度腹を括った。


 僕と研二君はこの打合せ室を出て、例の巨大なサーバーの横にある、ここの職員が金魚鉢と呼ぶダイブ用の部屋に入って行った。

隣のモニター室から安達とゆかり先輩がインカムをつけて見ていた。


「一応あんた達もこのゲームの参加者という事になるんだからね。研二あんたはいつものキャラで良いんだね」


「うん。それでいい」


「じゃあ、天田君あんたはスーパースターとかにしてあげようか?」


「いえ、普通の冒険者で良いです」


「え?そう。でも……道化師って言うのもあるわよ」


「いえ、結構です。踊り子も結構です。それにエルフもお断りします。後で笑いのネタになるのは嫌ですから……普通にしてください」

僕は念には念を押しておきたい気分だった。


「分かったわ。じゃあ、賢者アマダンにしておくわ……つまらんのぉ」

ゆかり先輩は本当につまらなそうに吐き捨てるように僕に言った。


「それからあんた達とこちらではリアルで会話は出来ないけど、チャットは出来る様だから何かあったら文字で情報は送ってみるね」


「え?チャットは出来るんですか?」


「まだ確認中だ。ゆかりさん、またいい加減な事を言わないで下さい」

と安達にたしなめられていた。


僕は研二君は顔を見合わせると一緒にダイブした。




 そこは街の広場だった。


僕の目の前には冒険者姿の研二君が居た。


「研二君だよね」

一応僕は声を掛けて確認してみた。


「はい。研二です。でもここではジュリーと呼ばれています」

研二君は恥ずかしそうにキャラ名を名乗った。研二でジュリーか……とても分かり易い。


「じゃあ、僕は賢者アマダンだ。よろしく」


「はい。でも装備凄いですね」


「え?そうなの?」


「それ賢者の杖じゃないですよ。神々の黄昏って言われているラグナロックの杖ですよ」


「そうなの?」


「ええ。通常は最強の攻撃魔法とヒーラー系の魔法と両方使えます。杖を逆さにすると槍代わりにもなりますが、杖のくせにロンギヌスの槍ぐらいに破壊力あります。その辺のボスキャラなら一撃で消えますよ。正真正銘のレアアイテムです」


「へぇ~凄いな」

そう言って杖を持ち換えてみたがずっしりと重量感を感じる。これがフルダイブ型VRMMOの世界か……本当に現実と変わらない……どんな演算処理しているのか後で聞いてみたくなった。


「それにマントも全部レアアイテムですよ」


「そうなんだ」

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