テニス肘

(クソッ、肘が痛む!)

 コートの中にバウンドするボール、必死でラケットを伸ばすが届かない。

 これで15-40。

 相手のマッチポイントだ。

(次が、僕の最後のサーブになるかもな……だが、それでもいい)

 僕は、背中に注がれるひしひしとした視線を感じていた。

 込められている期待。

 負けるわけにはいかない。

 転がった黄色いボールをラケットで叩き、バウンドさせて手に取る。息を整え、汗を拭い、サーブ位置についた。

 ラケットを持った右肘を、問いかけるように見つめる。

 それから僕は、サーブの体勢に入った。

(もう一度……もう一度だけでいい)

 左手でボールを上げる。

 空の青に一点、映える黄色。

 落ちてくる。

 そして――

(動いてくれ! 俺の肘!)

 ボールはそのまま、コートにバウンドした。

「……駄目だ……肘が……動かない。リタイアさせてくれ」

 

   ※   ※


「いやぁ、いい汗かいたね。じゃ、このあとはレストランを予約してあるから、各自の車で移動しましょう。お酒もでるから飲む人は……」

「ちょっと、定岡さん」

「なに?」

「田島さん、大丈夫なのかしら? ケガしたみたいだったけれど」

「平気さ」

「だって、あんなに痛がって……肘を冷やしたりしてたのに」

「いつものことだから」

「?」

「田島さんは、負けそうになると肘を痛める癖があるんだ。特に、あなたみたいな美人の前ではね」

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