ハニーハニャーダーリン

 彼を見かけたのはほんの偶然だった。

 低木と低木のちょうどあった隙間に隠れるようにして途方に暮れたように座り込んでいた。

 近道だからと通りかかった夕方の公園で、私とばっちり目が合った彼はけれど、特に恐れるような素振りは見せなかった。

 誰かから見つからないように隠れているけれど、それは私じゃないからだろう。

 もう全力で喧嘩をしたのかボロボロで全身砂で汚れていたけれど、男の子って時々こんな危ういやんちゃをしでかすもんね、なんて思ってゆっくりと傍を通りすぎた。

 彼の目は青く、透き通っていて南海のサンゴ礁の海を彷彿とさせた。とてもきれいだった。思わず足を止めてじっと見つめてしまうほどに。

 さすがに動きを止めて注意を向けられたのは気になったのか、彼は少したじろいだ。

 その様子が私の心を惹き付けて、無意識に一歩二歩と近づいていた。

 見知らぬ人間の接近に、しかし向こうは特に不審がる素振りは見せなかった。

 座り込んだまま無言で私を見上げてくるだけ。

 後に彼は少し目が悪く、その上極端な無口だってわかるけれど、単に目付き悪いなってこの時は思った。

 たまたまコンビニ帰りの私はおやつを持っていた。

 何か草臥れてるし、お腹空いてそう。

「た、食べる……?」

 お菓子の袋をつまむようにして差し出して振ってみせた。彼は返事をしなかったけれど。

 その目が怪訝そうにしているのを悟った私は少し気まずい気分で、ビリビリと自分で袋を開けて中身を頬ばった。

「大丈夫、変な物は入ってないから」

 それだけ言うと、この場に留まるのが居た堪れず袋を押し付けるように置いて早足で公園を後にした。最後に振り返った時、彼がおずおずとして袋に手を伸ばすのが見えていた。

 夕食後、公園の彼はさすがに家に帰っただろうと思ったけれど、砂まみれの薄汚れた姿の中の唯一に輝く彼の薄青の瞳は、どこか悲しそうだった。思い詰めていたと言ってもいい。

 不安が膨らんだ。

 夜中は雨だって予報が言っていたっけ。

 だけど雨は既に降り出していた。

 結構強めな窓の外に気付いたら居ても立ってもいられなくて、傘を手に家を飛び出していた。このご時世に物騒にも鍵もかけずに。

 公園までこんなに息を切らして走ったのは初めてだった。

 入口で少し足を緩めただけで止まらずに私は彼がいた低木ら辺まで進んでいった。水溜まりを踏んでも泥はねしても頓着せずに。いるわけないかと半分諦めながらもケータイのライトを頼りに彼を見た場所まで行った。

 暗い闇をライトが照らす。

「は、そりゃいないか。こんな所に座ってたらずぶ濡れになるしね」

 どこか帰ったに違いない。空になったお菓子の袋だけが残されていた。

 少しのがっかりと大きな安堵を胸にふと近くのベンチを照らした。ライトはその下までを薄ら照らす。

 ぎらりと下の方で何かが反射した。

 まるで目のようなそれが。

 いや、目だった。彼の。

「まだ居た、んだ」

 私はしゃがみ込んで手を伸ばした。

「おいで。うちに」

 傘の下、私は濡れるのも構わずに彼を抱く。震えていた彼は僅かに身を固くしたけど、私を引っ掻く気力もなかったのか、大人しくしていた。

 じわりじわりと濡れた服ごしに熱が伝わった。お互いの。

「良ければ一緒に暮らそっか」

 私の言葉に彼は初めてないた。

「みゃあ」

 と。

 まだ寒さに震えた声で。

 それでも、意味を理解し安心したかのように。

 その夜、私にはとても愛する彼ができた。

 

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