第16話 デート
土曜日、いつもよりゆっくりと起きてベッドの上でボーとする。
ミィーは相変わらず俺視線では女の子の姿のままで俺の足元で丸まって眠っていた。
テーブルの上にはいつもの様にトーストとスープが置いてありメモがついている。
『チンして食べてね(ハート)七海』
食事を済ませて七海がデートだとはしゃいでいたので俺もそれなりの格好をしなければとクローゼットを開けるとそこにはシャツやブルゾンに綺麗な茶色のジャケットが掛けられていた。
ブルーのシャツとジャケットをベッドの上に投げてシャワーを浴びる。
半乾きの髪にムースを付けてボサボサの髪を後ろに撫で付け、ジーンズを穿いてシャツに着替えながらミィーに話しかけた。
「おい、ミィー。出かけるけどお前はどうする?」
「行ってらっしゃい、デート頑張ってきてね」
こいつどこかで聞いてやがったな、そんな事を考えていると部屋のインターホンが鳴った。
「今、出るから」
玄関を開けると見慣れない格好をした七海がそこに立っていた。
ネイビーブルーのタートルネックのカットソーにブルーと茶系のチェック柄のキャミワンピと言うのだろうか、足元は幅の広いリボンで編みこまれたスエード地のキャメル色のブーツで白いボアがワンポイントになっていた。
俺の記憶が正しければ七海の私服姿は初めて会った時の黒ずくめの格好と花柄のパジャマ姿だけだったのでとても新鮮に見えた。
「な、何? なんか私の格好変かな?」
「変じゃないぞ、可愛いかな」
「『かな』は余計じゃないの?」
「そうだな。可愛いぞ、行こうか」
「うん、ありがとう」
マンションから歩いて駅前の繁華街に向う。
今日の七海はいつもと変らない感じがしていた。少し余所余所しい感じがするけれど。
「七海、どうしたんだ?」
「何が?」
それは玄関を開けた時に感じたものだった。
俺の顔を見るなり少し驚いた気がして、それからどことなく感じていた事なんだが。
「いや、確信がある訳じゃないんだが、少しいつもと七海の態度が違うと言うか」
「そ、それはたぶん。ま、マコちゃんが大人ぽく見えるって言うか、その、す、素敵な男の人って感じがして。あの……」
「しどろもどろだな」
「だ、だって……」
「ほら」
俺が七海に向ってぶっきらぼうに手を出すと不思議そうな顔をして俺の顔を見上げてきた。
むず痒いというか照れ臭いというか、堪らず七海の手を掴んだ。
「えっ?」
「『えっ』じゃねえよ、デートなんだろ。それに俺がどんな格好していても俺には変わりないだろ」
「うん!」
七海が満面の笑顔になり。
不思議な事に知り合ってまだ数日しか経っていないのに七海の笑顔を見ていると俺自身も嬉しくなっているのに気付いた。
「なぁ、七海。携帯ってどこで契約するんだ?」
「駅前のショップだよ」
「それじゃ、他の店とかも覗いて見ないか?」
「街ブラって事?」
「街ブラってなんだ?」
「しょうがないな、街をブラブラする事だよ、ウィンドウショッピングしたりお茶したり」
「よし、行くか」
「うん」
最初に七海が目を付けたお店はアクセサリーショップだった。
シルバーや18金のアクセサリーが綺麗にディスプレーされていた。
「えへへ、可愛いね」
「そうだな」
「あれ? これ何?」
七海が俺のジャケットの胸ポケットに入っている物に気付いた。
それはべっ甲柄のメガネで七海に言われるまでジャケットを着ている俺でさえ気付かなかった。
「度は入って無いみたいだからサングラスみたいなものかな」
メガネをかけてお店の鏡を覗き込む。
度は入ってないので恐らくサングラスみたいなものか伊達メガネかのどちらかだろうと思う。
「似合うか?」
俺が振り返ると目の前に七海の顔があり、メガネをかけた俺の顔が気になったらしく七海も鏡を覗きこんでいたらしい。
ドクンっと心臓の鼓動が早まるあと数センチで唇が触れてしまうくらい、近くに七海の顔がある。
するとボッと音を立てて燃え出しそうなくらい七海の顔が赤くなって慌てて七海の顔から遠ざかる。
「ご、ゴメン」
「び、びっくりした……」
「ゴメンな」
「うんん、平気だよ。少しびっくりしたけど」
深呼吸して少し七海から離れてアクセサリーを見始める。アクセサリーでも見ていないと平常心が保てそうにない。
しばらくすると落ち着いてきて七海の姿を探すとショーケースの中を熱心に覗き込んでいるのが見えた。
「何を見ているんだ?」
「う、うん。あのリング、可愛いなと思って」
「あのブルーのラインの奴か?」
「うん」
そのリングはシルバーのペアリングで綺麗なブルーのラインが真ん中に入っていて、小さなダイアモンドが埋め込まれダイアの部分でブルーのラインがクロスになっていた。
「すいません、これ見せて欲しいんですけど」
「ま、マコちゃん?」
「見せてもらうだけだよ」
店員さんに声を掛けると笑顔でペアのリングをケースからだしてくれた。
「付けてみたらどうだ?」
「えっ? うん」
七海が戸惑いながら指につけるとぴったりのサイズだった。
「へぇ、指輪か。それじゃ俺も」
少しふざけて嵌めると不思議なくらい指にフィットしていた。
「カップルさんにお勧めの一番人気のペアリングになります。お2人ともお似合いですよ」
店員さんが満面の笑顔でそんな事を言ってきて、七海が慌ててリングを外してケースに戻している。
俺も照れ臭くなってリングを外してケースに入れると七海が表の通りを見ながら何かに気付いた。
「あっ、雪菜ちゃんだ」
そう言いながら七海が店の外に出て行った。
ショーウインドー越しに七海と雪菜が何かを話しているのが見える。
これから学校に向かい生徒会長の家に行くのだろう、雪菜に丸投げしてしまって俺は七海とデートしているのが申し訳なくなってくる。
ふっとリングが入っていたショーケースに目を落とすと可愛らしいクロスのペンダントが目に付いた。
そのペンダントはシンプルなクロスで真ん中にブルーダイアが埋め込まれていて雪菜に似合いそうな気がする。
俺の前でニコニコ顔の店員にペンダントとペアのリングを購入する事を告げラッピングをしてもらう。
両方で良い感じの値段がするが俺の財布にはそれに見合うだけのお金が入っている筈なのだ。
それは昨夜の事、買い物に行きたいから金はどうすれば良いかとミィーに聞くと『君のお金なのだから好きなだけ使えばいい』そんな返事が返ってきたから。
本当に嫌になるくらい俺の周りは何でも在りで、このさい使えるものはフルに使わせてもらう事にした。
代金を支払いペンダントをジャケットの内ポケットにそしてリングはポケットに入れて店を出る。
ちょうど雪菜と別れて七海が手を振っていた。
「お待たせ」
「あれ? 遅かったね」
「ああ、少しな。行こうか」
「うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます