乙女ゲームの悪役令嬢?!

第32話 和田悠希です。2


 和田悠希です。


――――――――


 近頃、ゆりかが変わった。

以前は能天気で明るい子だったのに、近頃はなにか思いつめた顔をする時がある。

少し影があるようにも思える。


 小さい頃から可愛いらしかったゆりかだが、その影がもの静かな印象を与え、よりゆりかの美しさを引き立たせているように感じてしまう。

儚い花みたいなんだ。

凛として美しい花を咲かせているけど、簡単に手折ってしまえそうに、脆そうにも見える。

そんなゆりかを守りたいと思わせた。

ゆりかを知り、ゆりかへの存在がどんどん大きくなっていく。

どうしたらゆりかを守れるんだろうか。

彼女の影は一体何なんだろう。


 窮屈な家に生まれたせいか?

許婚なんて勝手に決められたせい?

 ……そんなの考えたくもない。



 ゆりかを守りたいと思い始めたのは、ゆりかの兄、隼人さんの「まるで王子とナイトみたいだ」って言葉がきっかけだった。

王子が自分でナイトが貴也っていうのは、自分でも容易にわかった。


 いつも大人な役回りでゆりかと俺をフォローする貴也にただ漠然と憧れ、やつの行動に少し嫉妬した。

自分も貴也みたいにナイト役になりたいって思った。


 貴也がいなければ…2人きりなら、ナイトになれるかもって思って、そのせいでゆりかを京都旅行にまで連れて行った。

みんなに迷惑をかけて、2人でデートした……。

正直、ゆりかは可愛いかったし、手も繋いで、楽しい思い出も作れた。

でも後で、激しく後悔した。

ゆりかを嫌々連れてきたんではないか。

父様、母様に迷惑をかけ、貴也を除け者にして傷付けたのではないかって。

猛反省した。

あれに関しては黒歴史と化している。


 だからあれからは我が儘は言わずに、ゆりかを見守りながら、傍らにいようって決めたんだ。

彼女に危険が及ばないように、なにか怖い思いをしないように、俺が守ろうって。


 もちろん彼女の護衛の狩野みたいに強くないし、常に一緒にはいられない。

でもなるべく、一緒に居たいと思ってる。


 出先でゆりかには似つかわしいチェーン店のカフェに入っていくのを見つけたとき、思わず乗っている車を止めさせた。

貴也は「ゆりかさんだって、スタパに興味あるんだよ」って笑ってたけど、本当にそれだけか心配になって、ゆりかが無事に飲み物を買ってくるまで車の中でじっと見届けた。

もし怪しいやつがいたら、俺が出ていくつもりだった。

まあ、その懸念は杞憂でしかなかったのだが。


 店から出てきたゆりかは楽しそうで、こんなに良い笑顔見れるなら、今度俺が連れてきてやろうなんて思っていたのに……なのに、あの事件が起きた。


 不覚にも守らなければならないゆりかに、ホットドリンクをかけてしまったのだ。

正直狼狽えた。

反応したのは狩野と貴也だった。

やっぱり俺はナイトになれなかった。


 しかも貴也とゆりかが一瞬良い雰囲気だったのは忘れない。

ゆりかの手の甲に貴也の口が触れかけていた。

なんだあれは?

まるでナイトが姫君の手の甲にキスをするみたいじゃないか。

面白くなかった。

俺がきっかけで起こった事件なのに、その後、怒りをゆりかと貴也に向けてしまったのは、自分のダメなところだと思う。

情けない。

でも気持ちが止まらなかったんだ。

ゆりかに頰に触れられて、初めて正気に戻るまで、気持ちが抑えられなかった。


 その後も事件は続いた。

半ば強引に連れていった図書館で、知り合いのおっさんの銀行員と話しているうちに、ゆりかが倒れた。

そのおっさんが変なこと言ったんじゃないか、と少し心配したが、ただの寝不足だったらしい。

増々自己嫌悪した。


 京都の時と同じだ。

もう自分の我が儘は通さないと思ったのに、体調の悪いゆりかを連れていくなんて。

自分は一応、家の仕事で見学をするために来ていたから、その目的を果たさなくてはいけなくて、ゆりかのそばを離れなければならなかった。

そんな俺に対してゆりかは白い顔をして手を振っていた。

無理をさせてしまっていた。


 ゆりかは大人だ。

貴也も――だ。


 自分はどうしてこんなに子供なんだろう。

ゆりかを守りたいのに。

自分の感情ばかり優先してしまう。


 いつかゆりかに愛想つかされてしまわないか、不安になる。

でも手放すことは考えられない。

ゆりかにずっとそばに居て欲しい。


 ずっと俺が守るから。

大人になるように、頑張るから。

お願いだから、貴也にも他の男にも、俺以外の男にその影を明かさないで――――

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