第13話 ママはカメラマン

 卒園式が終わり、みんなが園庭で写真を撮っていた。

まだ桜は咲いていない。

頑なにツボミを閉ざしたままだ。


 ゆりかも例外なく写真撮影をしていた。

正確には母親が写真をパシャパシャ撮りまくっていた。

今日は仕事の都合で父がこれなかったので、母だけの参加だ。

そのせいで、母の張り切りようがまた凄い。


 「高円寺さん、一緒に写真撮りましょう?」

クラスの女子が声をかけてくれた。

すかさず、ゆりかの母親がカメラを構える。

カメラ小僧みたい。

「ゆりかちゃん、こっち見てー」


 「先生たちとも撮り終わったし、あとは悠希君と貴也君ね」

母に言われて、悠希と貴也を探すが、2人の周りには人だかりができていた。


 あ、あれは厳しいなぁ…。


 ゆりかにあの人集りから2人を連れてくる度胸はない。

そうこうしてると、

「あらまあ。

悠希君と貴也君って人気ものなのね。

ちょっとママが呼んでくるわね」

そう言って母は人集りに割り込み、いとも簡単に2人の手を引いて連れてきた。


 ママ!なんてメンタルが強いの!


 その後ろには和田夫妻と知らない男性がいた。

背が高く、物腰が柔らかく、オールバックの髪型は大人の男性といった感じで少しセクシーだ。

オシャレにスーツを着こなしているので、モデルのようにも見える。

「ゆりかちゃん、お久しぶり!」

「卒園おめでとう!」

和田夫妻が明るく声を掛けてきた。

「叔父様、叔母様、こんにちは。

ありがとうございます!」

ゆりかは礼儀正しくお辞儀をする。

「高円寺様が悠希と貴也を連れ出してくれて助かったわ。

次から次へと写真をお願いされて、きりがなくなってきてたから。ね?」

苦笑しながら和田母が隣のオールバックの男性に意見を求めた。

「そうだね」

低くてよく響く低音ボイスに思わずドキッとしてしまう。

 「あの、そちらの方は?」

先に質問したのは母だった。

「あ、この人ね。

私の弟で、貴也の父親の相馬春貴そうま はるたかよ。

一応、相馬コーポレーションの副社長してるの」

和田母が答える。


 相馬父!

どうりで美形!


 「はじめまして。

高円寺様の奥様ですよね?

相馬貴也の父です。

いつも貴也がお世話になっています。

よくご主人とも仕事でご一緒させてもらってます。

ご主人の話通り本当に美しい方ですね。

あ、これ名刺です」

「はじめまして。

相馬様ったら、ご冗談がお上手ですね」

相馬父と母がにこやかに名刺交換をしだす。


 貴也君の家は確か化粧品メーカーの会社だったっけ。

我が家ともなにかしら繋がりがあるようだ。

それにしても相馬父、ママに対してサラッと美しいって言ったぞ。

さすがフランス人とのハーフを妻に持つ男だ。

発言がフランスナイズされてる。


 名刺交換が済むと相馬父は母の隣にいた私に目を向けた。

「君がゆりかちゃんだね。

噂はよくきいてるよ」


 ん?またこのセリフ?

以前にも和田父に言われたセリフを思い出す。

みんな一体何の噂をしているんだ?


 「いつも貴也と仲良くしてくれて、ありがとね。

小学校に行っても仲良くしてあげてね」

そう言って、大きな手で私の頭を撫でた。


 低音ボイスに頭撫でって萌えだろ。

相馬父、やばい。


 「お父さん、初対面の女性にそう易々触るのはよくありませんよ」

貴也が相馬父の手を離した。

「なんだ、貴也。

お前も撫でてあげようか?」

いやがる貴也のを相馬父はわしゃわしゃ撫でると、珍しく貴也が嫌そうな反応を見せた。


 なんだあんな顔もするんじゃない。


 「さあさあ、早く写真撮って帰って、お食事会に行きましょうよ!

母様、もうお腹ペコペコよ!」

和田母が待ちきれない!とばかりに、悠希、貴也、ゆりかを強引に並ばせる。

「姉さん、曲がりなりにも和田家の嫁なんだから、そうゆうことは外で言っちゃダメですよ」

弟である相馬父がツッコむ。


 「はい、写真撮りますよー。

みんなこっちむいてちょうだーい」

母がカメラを構えた。

パシャリ。


 春うららか中、卒園式の素敵な写真が撮れました。

桜の開花まであと少し。

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