7新キャラは尾行と共に
奮起して早々に
「はー、いっそのことさっさとアカデミー入って錬金術魔法でスライムだけを食べるキメラを創り出す研究するのもありかなぁ……。それを野に放てば外来種並みに増えて……くくく」
「アル、気をしっかり持て」
「だってさー、何かがっかり感半端ないよジャック~」
僕の泣き言にジャックも同意する。
「クエスト一件もないとか、世間でスライムってどれだけ無害認定なんだよって感じだよなー」
「んーまあ実際にほとんど無害だしね。小スライムに噛まれても歯型すら残らないもんね」
初めて実家のキッチンで相手にした時は、そんな事も知らなかったから生き抜いてやるって本気で必死だったけどね。ああ、我ながら可愛い頃もあった……。
ショックを隠せない僕達はしばらく投げ槍にダレてギルドのロビーのソファでまったりした。
「うちの村で出たあのキングサイズのスライムって他にもどこかにいないのか? 湖に棲み付いてたような群れとかも。あんなの見たら即行クエスト発信だよな」
「そうだよね。いそうでいないよね。用水路の水を吸ったからサイズの膨張はあったとしても、キングサイズのとかそれに近しい大きさのって他で見たことも聞いたこともなかったし。そもそも水を吸うタイプってあの時が初めての遭遇だっけ。……うちの排水管のとは種類違っててホントよかった」
もし水吸収タイプだったら、屋敷の排水管はあちこちで破裂して大変だったと思う。今更ながらの大安堵。
「何かさあ、どうせなら生け捕りにして吸水ゲル研究開発室にでも売り付ければ良かったよね。結構稼げたと思う。はあー失敗した。でもあの時は夢中だったし精一杯だったもんなあ。だけどまあ、次出会った時は逃がさない。用済みになれば研究室の方で秘密裏に処理してくれるだろうし……一石二鳥」
くくくっ……と僕はやや俯いて肩を揺らす。
「アルはスライムのことになると顔に似合わず腹黒いよなー」
ジャックの独り言は流そう。
「まあでも今考えるとホント疑問だよね。何でうちの村にあんなのがいたんだろう? 近隣でも目撃例は報告されてなかったし、どこから来たんだか」
「今まで封印されてたとかじゃないか? オースエンドの山奥だと誰にも知られてない封印とかありそうじゃん。それが何かの理由で解けてたまたま村に来たとかさ」
「あー確かに」
可能性としてはなくはない。
「アルってよくよくスライムと縁があるよな。実はスライムホイホイなんじゃないか? よく家庭用のが売ってるよな」
「ええ? 何それやめてよー。そんなの冗談じゃないってば」
それに売ってるホイホイはスライムじゃなくてゴキブリが捕獲対象だよジャック。
「ハハッだよな。まっ、俺みたいな思いする奴が増えないためにもあれと同じのは二度と出ないことを願うのみだ。マジでしばらく臭かったからなあれは……」
ジャックは我が身の犠牲とそれが齎した不幸を思い出したのか、ことりと首を落とし「マジにホントにな……はは、ははは、あはははは」と思いっきり不気味に薄笑い。
さっきからの黒幕笑いに絶望笑い。
あれ? 僕達の周りだけ台風の目みたいに綺麗さっぱり椅子が空いているよ?
「でもどうする? 他の魔物で妥協するか? 俺はそれでも構わない」
「そうだなあ。スライムは今まで通り道中にいる奴を徹底的に狩っていくしかなさそうだもんね」
落胆しつつも気を取り直し二人で候補を幾つか絞ると、最終的にはここ最近ルル近くの森に出るようになったという樹木の魔物――ダークトレント討伐のクエストを受けた。
木の実や薬草を分けてくれる善良なトレントとは違って
道の真ん中でわざと横に倒れて進路妨害するんだとか。元々が太いのと枝を手のようにしならせて攻撃してくるから、上を越えるのも難しいらしい。
迂回路が遠回り過ぎて一部の商品の流通にまだ小さいながらも滞りが出始めている……という事で都市経済への影響を危惧したルルの商業ギルドがクエストを出したってわけ。
トレントは魔物じゃなく、人前に滅多に姿を現さない木の精霊の化身で、反対にダークトレントは見た目こそトレントに似ているけど魔物だ。ただ、あくまでも樹木の魔物なので、幹がギザギザして歯に見える部分はあれど厳密には歯じゃないらしく、基本的に人や動物を食べたりはしない。
受付を済ませて渡されたクエスト関係の書類を肩掛け鞄に仕舞いながら、ジャックと共に冒険者ギルド建物を出る。
「今回のは一週間って期限があるし、今日は早速もうアイテムを揃えようか」
期限っていうのは文字通りの期限だ。クエスト達成の報酬を僕たちが優先的に受け取れる期間の事で、それを過ぎると自動的に未完遂って扱いで他の冒険者がこのクエストを受付可能になる。だから魔物を倒しても報酬が全額じゃないなんて不憫なケースもたまにあるらしい。
これは冒険者がクエストを受けるだけ受けて、それを長々と放置するという全く感心できない事態を避けるための仕組みだ。
クエストの大半は冒険者ギルドの方で審議して適した有効期限を定めるって聞いた。だからその長さは依頼内容によってまちまちだ。
けど中には特にないものもある。いい例がシュトルーヴェ村のクエストで、あれは村の人達の意向を酌んだものらしかった。
「ダークトレントに有効なアイテムとなると……
「いやいくら木の魔物だからって斧必要ないでしょ。普通に
「そうか?」
「そうだよ」
「まあ、だよな」
何だ、半分冗談で言ったんだね。
因みにカールおじさんとステラおばさんはああ見えて元冒険者だ。勿論おじさんの武器は言わずもがな。おばさんのは聞いてないからわからない。まさかパテとか泡立て器じゃあないだろうけど。
と、ここでジャックは何かを思いついたような顔をして僕の方を見た。
「なあ、ついでに質屋にも行ってあの古い杖の価値見てもらおうぜ」
「おっいいねそれ。他にも溜まってた要らないドロップアイテムとか魔宝石とか換金しちゃおうか。案外重いし邪魔だもんね」
「よし決まり。じゃあ一旦宿屋に戻るか」
各地の冒険者ギルド共通の紋章「固い握手」の描かれた看板を背に、他の都市よりも尖塔の多い華やかなルルの街中を宿まで歩く。
ここはどこよりも結婚式場の多さで有名な都市で、だから必然的に尖がり屋根の鐘楼が多い。
一般家屋にしてもほとんどが近隣で採れる蜂蜜色の石を建材に使っているので、色彩からして甘かった。地元だけじゃなく他の都市からも式を挙げに多くのカップルが訪れるらしい。
いつもどこかで結婚式が行われているせいか、街の雰囲気は陽気だ。
道行く人々の表情も明るい。
笑顔は笑顔を、幸せは幸せを引き込むのかもしれない。
街中には幾つも質屋があるから正直どこに行こうか迷ったけど、とりあえずは一番近い所から向かった。
宿屋の従業員の一人に訊けば評判も悪くはないみたい。
「なあアル」
「ん?」
そしてそんな道すがら、結婚式場見学ツアーでもあるのか賑わうカップルの一団を物欲しそうに横目に見つめるジャックがやけに情感溢れる声で次のように自分を晒け出した。
「俺な、俺はな――――女の子が欲しい……!」
一人の男の実に切なる訴えだった。
「……君の幼女趣味にどうこう文句を付ける気はないけど、犯罪者にはならないでよ?」
「違う! 俺ちゃんと前はロリーいやいやリリーッて元カノいただろ! 俺はロンリーだがロリ専じゃない!」
「幼女がめちゃくちゃ可愛かったら?」
「わからない……!!」
ロンリがめちゃくちゃだ。と、ここで夜のお仕事関係の人なのか、露出の多いヒラヒラの薄い服を着たおねえさんがビラを片手に「お願いしまーす」と寄ってきた。
むむむ胸の谷間がすんごいよ!
で、僕の顔を見ながらこれみよがしにその双丘を押し上げる。
こうあからさまだとちょっと怖い……。
「いっいえ僕たちはっ」
「お願いされちゃいまーす☆」
ジャックは鼻の下を伸び切ったゴムみたいにだらしなく長くして、飛び付くようにビラを受け取った。
「え、ええ、よ、よろしくね~」
それまで押し気味だったおねえさんは、見事に営業スマイルが引き攣っていた。
生理的に駄目だったのか、そそくさと別の男性にビラを配りに行ってしまう。
ジャックは走ってったおねえさんをまだ見ている。
ガン見……。
主にボインボイン揺れる胸を。
リリーにはなかった奇跡の丘を。
「ジャック……」
わからないでもないけど、貧乳でもいいとか言っといてこれじゃあ、やっぱりリリーに振られるわけだ。
「なあアル、やっぱ女子はいいよな~。ああ、欲しい」
「往来で堂々と欲求不満を吐露するのは止めた方がいいよ」
僕が呆れると、ジャックはやけに神妙な眼差しになった。
「そうだが、同時にそうではないのだ、アルフレッド君」
「え、何急に……」
「――俺達のパーティーには女子が必要だとは思わないか? 是非とも潤いを、と言う尊い提案だよ」
なん……だと……!?
晴天の霹靂とはこの事だ。
僕は雷に打たれたように道端で固まった。
「そ、そうか、そうだよ。何も男子旅する必要はないよね。それはそれでバカやれて楽しいけどさ」
「ああ、巷のパーティーを見てみろ。大体男女混成だ!!」
ごくり、と僕の咽が鳴った。
「じゃあ、僕たちは……ジャック……!」
「ああ! 楽園を築こう!」
「ジャアアアーーーーック!!」
発奮し手を取り合う僕たちを、往来の皆は完全引いた目で見て避けて通っていた。
「何話してるんだろ。熱い友情の形成って感じだけど……?」
少年たちの異常なまでの興奮ぶりを建物の陰から窺い見ていた少女は、フードの下で眉根を寄せ不可解そうな顔をしていた。
「宿を引き払ったわけでもないのにあの杖を持ってるし、一体どこに向かってるの?」
エロの方向に、とは露ほども思っていない少女は、彼女もまた周囲の通行人からは明らかに不審者と見なされているとも知らず、二人を追ってこそこそと歩き出した。
「どうせなら、魔法使いって言うか、まあ正式魔法使いじゃなくても魔法得意な子がいいよね。治癒魔法も出来るようなさ。僕達浄化や回復系の魔法の才能はからっきしだし」
「まあなー。アイテムに頼り切りだと使い果たした時不安だもんな」
「メンバー募集もギルドに行って申請すればいいんだっけ? メンバー探してますって」
「ああ確か」
そんな会話を交わしているうちに、質屋に着いた。
基本何でも換金しますと看板には書かれている。
重厚な木の扉を押し開いて店内に入ると、そこには買い取り待ちの先客たちが結構いて、壁際に並べられた椅子に腰かけている。
質屋によってはリサイクル品を販売している店もあるって話だけど、ここは買い取りのみ。
店内は床も壁もオフホワイトとブラウン系のシックな色調で統一されていて、その格式高いとも言えるデザインにちょっと気圧された。さすがは五大都市。
整理券を受け取って他の客同様空いている椅子に座って順番を待っていると、入口のドアが開いて同年代の女の子が一人入って来た。
明るい栗色の髪はショートボブ。色白で、しかもかなり可愛い。
旅用マントの下には魔法使いの定番のローブが覗いている。
へえ、魔法に強いんだあの子。
でなければローブなんて普通着用しない。
とは言えそんな服装は魔法使いの多い冒険者の中では別段珍しくもないので、視線を外し何となく店内を眺めた。
「なあ、アル、アル」
すると、隣に座るジャックが声を落として肘でつついて来た。
「どうかしたの?」
「いや、あそこの女子がさ」
彼の視線を辿ると、ついさっき入店してきた女の子がいる。
「あの子がどうかした?」
「それがさー、さっきから、それこそ入店してからずっとこっち見てくるんだよ」
「ずっと? えージャックが何か失礼な眼差し送ったからじゃないの? 可愛い子だし。さっきのボインなおねえさんのことだってしばらくエロ目で見てたよね」
「そ、それとこれとは別ものだって」
バツが悪そうに赤毛頭を掻くジャック。
僕達のそんなやり取りさえも見ているその子は、気付かれているのに気まずそうな顔一つしない。
確かに、一心にジャックを見ている。瞬きさえ惜しむようにして……。
「ええと、何か変じゃないあの子」
「だからそう言ってるだろ。熟練の鑑定士みたいな目付きだし俺に一目惚れってわけじゃないよな」
ふと、僕は気付いた事があってジャックが両脚の間に下ろしていた荷物に手をやった。
「もしかしてあの子……」
「アル?」
僕が手に持ったそれを見てジャックは怪訝にしたけど、僕は迷わず頭上に掲げる。
スイ、と彼女の視線も持ち上がった。
「ああやっぱり」
「何がやっぱりだよ?」
「あの子魔法得意だと思うんだけど、たぶんこのシュトルーヴェ村の杖が気になってるんだよ」
「ええ? この見た目ガラクタをか? どんな目利きだよ」
「いや目利きだからこそわかるんじゃ……」
そう言いながら僕が杖を横に動かせば、彼女の目もまたそれを追う。
まるで飼い主が手に持つ餌を追う犬猫状態だ。
「何かオーラが見えるとか、魔法に特化してる人にはこの杖の真価がわかるのかも」
「そんなもんか?」
「僕もまあ専門に魔法訓練したわけじゃないから、よくは知らないけどね」
と、整理券番号が呼ばれたので、僕達は彼女の事は一旦放っておいて査定カウンターに向かった。
窓口は全部で三つだから比較的回転が速い。
二人分の要らないアイテムと杖を台上に置く。
「買い取りお願いします」
「お品物は以上ですか?」
マニュアル通りに接客する係の女性へと僕は頷いた。
「今ですと十分から十五分ほどお時間がかかりますが」
「大丈夫です。お願いします」
「ではまたこの番号をお呼びしますのでお席にお掛けになってお待ち下さい」
十分十五分なら早い方だ。
僕達は丁寧な促しに愛想良く返し、順番待ちの番号と同じ番号がまた呼ばれるまで、その場を離れようとした。
「――その査定ちょっと待ったあああ!」
「「へ?」」
キョトンとする僕とジャックの真ん前に、一人の人物が飛び出してきた。一対一の告白場面に強引に割って入ってくる横恋慕男のように堂々とそして図々しく。
ショートボブの今の変な子だ。
彼女はカウンターの上にある魔法杖をチラチラ気にしながらも僕達を睨む。
「その杖、売るんならあたしに売って下さい! 要らないから売るんですよね。だったらあたしに売ったって同じだと思うんです!」
ショートボブの少女はかなり真剣に交渉をしにきていると僕は肌で感じた。
ジャックより少しだけ色合いの薄い青瞳がもうマジだ。
「お金なら、査定額の倍……いえ三倍は出しても構いません。もし、お金じゃないなら……その……ッ」
それまで強気だった少女が恥じらうように自らの腕を抱くと何かを言いにくそうに目も伏せる。もじもじ、もじもじ、としている。
はっ! ままままさかこれは「お金で駄目なら、体で払います」宣言の流れ!?
無駄に内心でドキドキする僕の横では、同じような思考に至ったのか、ジャックが目を見開き慄くようにして少女を凝視している。据え膳食わぬは……とか考えてそう。
でもさ、体で払います云々言われても僕としてはちょっとどうしていいのかわからない。実はトイレ我慢してたんですってオチなのを祈ろう。
ま、誰に売っても変わりないし、欲しがっている人の手に渡る方がこの杖だって喜ぶだろう。とりあえず有償で譲る方向で話を進めようかと、受付のお姉さんに「すみません、これは抜きで査定お願いします」とカウンターに置かれた杖だけを抜き取った。
「――お嬢さんはもしや冒険者で、しかも魔法系であるか?」
その時、どこからか紳士の声がした。
随分近くの、僕の横のジャックの口辺りから。
あれ、ジャックの他に傍に誰かいたかなー……ってジャックだよ!
見れば彼は気持ち悪いくらいに物凄く真面目な面持ちでいる。
お嬢さん? であるか?
言葉遣いもおかしい。
「ええ。冒険者です。戦闘では主に魔法を使います。正式な魔法使いの資格はまだないですけど……」
「治癒魔法は使えるであるか?」
「一通りは」
「誰かとパーティーを組んでいたりはするのであろうか?」
「いいえ、今は一人旅をしています。以前は仲間もいましたけど……」
「そうであるか。ちょちょ~っとその旅装のマントを脱いでみてはくれまいか?」
「マントを? ……ええと、こうですか?」
「ありがとう。大体わかった。結構である……大いに結構である!」
「え、あの?」
天晴れとか言い出しそうなジャックの様子に、僕はこの上なく呆れた。
今マント脱がせて目視で確認したのは、絶対彼女の胸の大きさだよね……。
「ジャック、君さそういうの良くな」
「――こ~れは家宝にも勝る我が大事な杖であ~る~。売るのは無理であ~る~。売るなんてもっての
「え、今更何言い出すの君? 僕達が持ってたってしょうがな」
「――だがあああ~~~~ッ! あなたにお貸ししよう!!」
「ジャック……?」
「本当ですか!? 貸してくれるんですか!?」
ポカンとなる僕とは裏腹に、少女が大喜びしたような声を上げた。
「ねえジャック? 家宝よりもって、もっての
困惑する僕の言葉を無視して、ジャックは話を続ける。
正直、顔付きがジャックにしては紳士過ぎてホント気持ち悪い。
「自由に使ってくれて構わない。ただしっ、――条件がある」
「じ、条件……とは、一体何ですか?」
「ああ、それはな、――君が我々のパーティーに入ることだあああっ!!」
なっ!? ジャック……ッ!?
僕は大いなる宣託を受けた巫女のように大きく目を見開いた。
「まさかそこまで君は、君は深慮していたのかっ……!」
「ああ、そうであるのだよ。アルフレッド君!」
僕は潤みそうになる両目を伏せ、両手で口元を覆うと顔を背けた。
「――っ、そんなの……そんなの最低だよっ、ジャック!!」
杖を餌にして半分なし崩しにパーティーに引き入れるなんて。
僕は未だかつてなき、友の底知れない心の渇きを見た気がした。
絶対断られるよねこれは。僕が彼女なら胡散臭くてお断りするよ。
DA・KE・DO……彼女は僕の予想の上を行った。
「――是非とも宜しくお願いします!!」
は? はいいい~?
「そうか! いやーははは良かった良かった! よろしくな! 俺はジャック。お前は?」
「ミルカといいます。宜しくジャックさん」
「ジャック呼びでいいって。アルにも俺にも敬語も不要だ。仲間になるんだからな。なっ、アル!」
「そう? じゃあ遠慮なく。あたしもミルカ呼びでいいわ」
「ぅえええっ!?」
僕の驚嘆を余所に条約締結とばかりに二人はにこやかに固い握手を交わしている。
冒険者ギルドの紋章かッ! おそらくはそういう理念の下デザインされた紋章なんだろうけど、今は何か同じ括りに入れたくない。
そんな時、査定が予定より早めに終わったのか、カウンター越しに番号が呼ばれた。
ジャックとミルカとか言う少女の傍を一旦離れ、僕は代表してカウンターで査定額やら諸々の了承をして換金手続きを進めた。
支払われた硬貨を手に戻ると、ジャックが完全浮かれた様子でいる。
「アル、煩わしい手続きやってきてくれてありがとな。でさ、今ちょっと話をつけたんだけど、ミルカに無償でその杖貸し出して、その間は彼女にパーティーに入ってもらう事で合意したぜ」
「ああ、うん、わかった」
「彼はアルフレッド。通称アルな。同郷で幼馴染みで、俺の唯一無二の親友だ」
上機嫌な友から背を叩かれて紹介された僕は、正直まだ少し戸惑っていた。
「う、ええとアルフレッドです。よろしく」
「ミルカよ。よろしくね、アル」
差し出された華奢な掌にやや引き攣った笑みを貼り付けて応じて杖を渡すと、彼女はいたく感激したように隅々まで魔法杖を矯めつ眇めつして眺め、果てはうっとりとした溜息をついた。
「君、本当にこんな加入方法でいいの……?」
「もちろんよ。仲間に入れてもらえるだけじゃなく、無償でこの貴重な魔法杖を使わせてもらえるなんて幸運だわ! ちゃんとした魔法杖が欲しかったし、これなら文句なしよ」
「あはは、そう? ならいいけど」
やっぱり。
この子は杖の価値をきちんと理解している。
必要としている者の手に……か。
ステラおばさんの言葉が脳裏にふと蘇った。まあ、これで良かったんだろう。治癒魔法も使えるって言うしね。
そんなほくほく顔の新メンバーミルカは何か話し忘れでもあったのか、杖から顔を上げて僕とジャックを交互に見てきた。
「ところで、二人はスライム好きなの?」
「「ま さ か ッ ッ ! !」」
僕とジャックが見事に揃って噛み気味に即答すると、その剣幕にミルカは青い目を丸くしてびっくりした。
「な、何だ良かった。てっきりスライムサイコなのかと」
「スライムサイコ? 何それ?」
「サイコスライムなら何となくやべえスライムってわかるけどな」
うわあ嫌な事言うなあジャック。サイコなスライムを想像したら殺意がひしひしと湧いて来たよ。
「スライム
「ええと、そのスライム
「「……」」
僕はジャックと顔を見合わせた。
「もしかして、僕達をどこかで見たの?」
アヒャヒャヒャッハーは決して間違ったイメージじゃないのを僕は自分でも知っている。でも他人の口から言われると複雑だ。
すると彼女は堂々としてきっぱりと断言した。
「うんそう。二人の事ずっと十日くらいかな、尾行してたから。どうしてもその杖が気になって」
「「……」」
十日もずっとストーキング……。
もしかしてこの子もサイコとは違ったやべえ奴なんだろうか。
「そ、そうなんだ。声掛けてくれれば良かったのに~」
僕は嘘っぽい笑みを貼り付けながら、内心じゃもう後悔し始めていた。
と言うわけでまあ、仲間が一人増えた。
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