騒がしい歓迎会(1)
ホワイトシチューに浮かぶ具をスプーンで掬い上げて口に運ぶ。味も良く香りも良い、野菜や鶏肉も丁度良い感じの大きさに切ってあって食べやすい。また、シチューに浮かぶ野菜が、元の世界の人参、ブロッコリー、セロリと酷似していて懐かしく感じる。
丸いパンをちぎりシチューに付けて食べる、パンに練り込まれたハーブの香りはシチューと良い感じに調和され、俺は舌鼓を打った。
ランの作ってくれた料理を3日ぶりに口にしたのだ。
そりゃもう天にも昇るような美味さで、この世界でランの料理は唯一楽しみにしていることだ。
だが俺は、素直に美味しいとは言えなかった。
チラッと前に視線を向けると、真顔でシチューを口にするラン。今度は左に視線を移すと、モグモグとパンをリスみたいに噛るアルモ。こちらも真顔だ。
帰って来て始めての飯は、葬式のような曇り模様である。
「……ねえねえ、何でこうなったのさ」
沈黙に耐えれなかったのか、右の席に座っていたヨーンが小声で聞いてきた。
「……それは、俺も知りたい」
何故こうなったのか、思い返してみる。
数時間前、日が丁度沈み始めた頃。俺とアルモ、チビは賢者の森近くに建ててある家の中へと瞬間移動したのだった。
どういう仕組みで移動出来るのか知らないが、少なくともペンダントを持った人物を中心に運ぶらしい。
霧が晴れた後、俺の目には見慣れた風景が写りんでいた。
少し間を置いた後、息を吸って、声を上げた。
「ラン! ヨーン! ただいま」
言葉は家全体に染み込んだかのように返ってこない。まあ当然だ。
「うっ~、いきなり大声上げないでよ。びっくりするじゃない」
見ると首を縮めてこちらを睨むアルモ。どうやら相当驚いたらしく、目にちょっぴり涙が浮かんでいる。
「ごめん、驚かしたな」
「全くです、まあアタシは、あのラミージュ・ランジェ様の弟子ですから、こんなことでいちいち文句は言いませんけどね。ふっふ~ん。アタシの寛大さに感謝してくださいよ」
小さい胸を張るアルモ。今の話のどこに見栄を張るような要素があったんだ?
「う~ん、うるさくって寝れないよ、何々、誰か来たの」
寝ぼけた目を擦りながらヨーンが階段を降りてきた。相変わらず眠たげだ。
「ヨーン、ただいま」
「ん? トウマ、お帰り」
よっ、と手を上げるヨーン。このマイペースな感じが彼女らしい。
「ところで、ランは?」
周りを見てみるが、ランはいない。
「ルンちゃんとお散歩してるよ、もうすぐ帰ってくるんじゃない」
「散歩?」
「うん、トウマがいないから代わりにランランがルンちゃんのお世話をしてるんだよ」
ルンちゃんの世話をしてるのか、俺がいたときはもちろん面倒を見ていた。しかし、ハスパードに向かった後はルンちゃんの面倒をランがしてくれていたらしい。本当、ランには感謝の言葉しか浮かばない。彼女の気配りには本当に助かる。
「ところで、そこにいる子は誰?」
俺の後ろに隠れているアルモに視線を向けるヨーン。
ヨーンが階段から下りてきた時、「ひっ!?」とかいって隠れたのだ。今も俺越しにヨーンを窺っている。
「怖がらなくて良いよ、安心して」
ヨーンはなだめる様な声でアルモに接する。ヨーンは俺の側まで来ると、前屈みになって後ろにいるアルモへ優しく声をかけた。
まあ、前に屈んだことで彼女の元々あった大きな果実が強調され、嬉しくは無いけど視野にたまたま入り込む、やっぱりでかいな、とか思ってないよ。
「大丈夫、怖くない、怖くない」
小さい子供に対する優しい口調で、大丈夫と何回も発する。
「……」
アルモは黙っていた。というか、固まっていた。
どういうわけか知らないが、アルモは揺れるヨーンの胸を見た辺りから硬直してるのだ。
何故胸だと言えるか、それは背後から小さく「む、胸が揺れているッ!?」なんていう声が耳に入ったからだ。どうやら彼女は人生で初めて胸が揺れているのを目撃したらしい。
「君、いくつ? 名前は?」
やんわりした口調で質問するヨーン。そして俺は、この瞬間大きな疑問符が頭に浮かんだのだ。
何故浮かぶかって? 状況を一度整理しよう。まずヨーンは前屈みでアルモを見下ろしている。そして今ヨーンの口調はゆっくりとしたものだ、決して急かすようだったり怒るようだったりしない。そう、とにかく優しいのだ。
本当に、小さい子供に対しての口調みたいで……。
…………もしかして?
「あのさ、ヨーン。ヨーンから見てアルモって何歳に見える?」
質問に対して、疑問符が浮かんだような表情のヨーンは。
「アルモって?」
「この人だよ」
「う~ん、僕は11~12歳かなと思ってるよ」
ガタンッ、と背後で音がした。何となくゆっくりと後ろを振り返ると、アルモが両膝を着いて泣いていた。
「確かにッ! そのぐらいで勘違いされることはある、あるけど、アタシは16だ! そんなに幼くない!!」
衝撃の発言に、ヨーンだけでなく俺も口が開いた。
「俺の1個下だったのか、てっきり13~14歳ぐらいかと思ってた」
バタンッと仰向けになるアルモ、その紅い髪は大きくまばらに広がり、まるでひびの入った硝子(ガラス)のようだった。
「あ~あ。トウマが止め刺しちゃったか」
今頃になり、止めを刺したことを反省した。ごめんなさい。
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